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「そうですか? なにかあったら言ってくださいね」
そう言ってにこりと微笑んで見せてくれた。俺はいたたまれない気持ちになった。
「ああ、うん。大丈夫だから」
と、無意識にアイスコーヒーを手に取り、飲んだ。何も入れていないアイスコーヒーの苦みが少しだけ俺を正気に戻してくれた気がした。
「……サイトウさん、コーヒーはブラック派なんですね。美味しいんですか?」
りゅーこちゃんから唐突に質問が飛んできた。
「あー、美味しいとは違うかな。なんて言うのかな……」
俺が言葉選びに悩んでいると、りゅーこちゃんは
「ひとくち飲んでみていいですか?」
と言い出した。
「え、いいけど……」
答えつつりゅーこちゃんにグラスを差し出した。待て。この歳になって気にすることでもないかもしれないが、間接キスになるんじゃないだろうか。そんな俺の疑問を余所に、りゅーこちゃんはアイスコーヒーに口を付けた。 間もなくしかめっ面をしたりゅーこちゃんから呻き声が漏れた。
「苦いです、ね…… ありがとうございました。わたしにはまだ早かったみたいです。大人の飲み物って感じ」
りゅーこちゃんは間接キスとか気にしないのだろうか。それとも俺だから許されたのだろうか。きっと前者だろう。そう思いながら返されたグラスを受け取った。
「大人の飲み物か。そうかもしれないな。きっとりゅーこちゃんにも分かる日が来るよ」
俺は曖昧な返事をしながら、甘いパンケーキで口直しをするりゅーこちゃんを見ていた。
* * *
食事を終えて外に出ると、雲ひとつない快晴だった。夏の日差しが痛いほどだ。俺はりゅーこちゃんを車に乗せると、アパートとは別の方向へと走らせた。
「あれ? どこへいくんですか?」
異変に気が付いたのか、外を見ながらりゅーこちゃんが俺に聞いてきた。
「……ちょっとドライブ。付き合ってくれる?」
この仄暗い感情は今の俺にどんな表情をさせていたのだろうか。りゅーこちゃんはこちらの内心に気が付いていない様子で「はい!」と元気よく返事をした。顔は見れなかった。運転中だったからだと心の中で言い訳をしておいた。
車を走らせること二十分。エアコンの利いた車の中は涼しかった上、木々が生い茂っていて容赦ない日差しを遮ってくれて快適な道中だった。俺たちは今、近くの山にある展望台へ来ていた。車から降りればじっとりとした暑さが襲い掛かる。
「こんなところに展望台があったんですね。知りませんでした」
りゅーこちゃんも車から降りると、俺のほうへと駆け寄って自然と隣を歩いてくれる。やはり彼女は俺のことを信頼してくれているのだろう。これから、その信頼を裏切ることになる。俺は間違いなくりゅーこちゃんのことが好きになっていた。そしてこのドライブのために両親のことを彼女に隠し続けている。彼女と離れたくない。彼女を独占したい。俺はそんなどす黒い欲望を隠し持った最低な大人だ。どうせ離ればなれになるのなら――。
俺はりゅーこちゃんを連れて、展望台のてっぺんまで歩いていった。




