【75】不審者の襲撃Ⅱ
リーダー格の男があっさり倒されて、他の男たちは侍女を抑えたまま固まっていた。
そこに、新たな声が飛び込んでくる。その冷え切った声に、全員が動きを止めた。
「メルツェーデス叔母様を、どこに連れていくと?」
誰もが入口を見た。
「もう一度、問おう」
こつん。革靴の音が、やけに大きく響いた。
「我が叔母、メルツェーデスを、どこに連れていくと?」
ルイトポルトが、控室の入口に立っていた。彼は部屋の中にいる、不届きものたちに視線をやった。
幼い子供とはいえ、伯爵家の嫡男として教育を受けている彼の視線には確かな威圧感があった。
その背後には、トビアスが立っており、彼は佩いていた剣を引き抜いていて、銀色が部屋の明かりに反射し煌めていた。
いつまでたっても返事をしない男たちに焦れたようにルイトポルトは息をつき、それから彼を睨んだ。
「叔母様に触れた上――」
ルキウスが取り押さえているリーダー格の男をルイトポルトは睨む。
「我が伯爵家で働く大事な侍女に手を出した事、許されると思うな」
その言葉を聞いて、リーダー格の男に殴られて頬を赤くしていた一人は侍女から手を放し、ヘナヘナとその場に崩れ落ちた。
だが他の諦めの悪い男たちが、窓際にいたメルツェーデスを突き飛ばして外へ逃げて行く。
……が。少ししてから「ギャアアアッ!」という悲鳴が闇夜に響き渡った。
ザッザッと草を踏みしめる音がして、暫くすると窓の外に、数人の見知った顔が現れた。
「不審者を見つけたので捕まえましたが、御無事でしょうか」
オットマーを始めとした、数人の騎士たちだった。彼らは先ほど逃げた男たちを捕まえていた。
「こいつら、ファイアオパールの人間みたいですが……」
騎士の一人は帽子の落ちた、意識を失っている男を掲げた。その男の髪の毛はオレンジっぽい色だ。
ルキウスも抑え込んでいる男の帽子を脱がせた。赤っぽい色の髪だ。ルキウスには髪の色から家を判断する事は難しいが、バルナバスの髪色に近い事は否定できない。
あっという間に敵が取り押さえられる。それを認識した瞬間、メルツェーデスはその場で座り込みそうになった。だが座り込んでいる暇はない。
「ジゼル!」
メルツェーデスはジゼルの傍に駆け寄り、最も信頼する侍女に必死に声をかけた。
「ジゼル。ジゼル、しっかりして。わたくしの声が聞こえる? ジゼル!」
繰り返される声に、少し遅れて、ジゼルの腕がピクリと動く。
「メ、ルツェーデス、様……」
ジゼルはふらふらと、頭を起こした。
「ご、無事、ですか……?」
「ええ無事よ。貴女の方が、ずっと傷が酷いのよ……」
メルツェーデスはそう言いながら、ジゼルの手をずっとずっと握りしめていた。




