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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第二粒 ルキウスと狩猟祭
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【69】狩猟祭-後夜祭

 ルキウスが意識を取り戻したのは、空が夜色に染まる少し前だった。ほんの少しの時間だけ、意識を失っていたらしい。

 どうやら意識を失っている間に体を洗われていたようで、いやに爽やかだった。服が着替えられているのは当然の事、頭皮から足の先までスッキリしている。

 体を起こし、部屋を見渡す。ここがどこか分からなかった。見覚えが無いが、どこかの館のようで……となると、恐らく狩猟祭の後開催される後夜祭の会場となる館だろう。実際、どこか遠くからざわめきが聞こえている。


 寝ていたベッドから体を起こす。後夜祭が始まっているにしろもうすぐ始まるにしろ、ルイトポルトの従僕としての仕事をこなさねばならない。


 そう思ってルキウスがベッドから足をおろそうとした時だった。

 ノックもなく、ドアが開く。

 ルキウスも驚いたが、ドアを開けた人物もルキウスが起きていると思っていなかったようで驚いていた。


「うわっ、起きたのか!」


 顔見知りの使用人であった。

 彼の言葉に頷く――前に、使用人は身を翻して走りだした。一人取り残されたルキウスは首を傾げつつ、立ち上がって部屋を出る。


 体中に痛みはあるが、骨が折れたような痛みはない。打撲ですんだらしい。運が良い事である。


 知らない建物なので、どこに行けば何があるのか、さっぱり分からない。

 とりあえずはルイトポルトの専属使用人たちと合流しなくては――と思った時、タッタッタッという軽やかな走る音が廊下に響いた。

 そちらに視線をやると、二人の使用人が全力で駆けてくる所だった。


「急いで着替えるぞ、ルキウス!」

「まだ間に合う! いくぞ!」


 そういうと、使用人はルキウスの両腕を掴んで凄い勢いで引き摺った。


 ルキウスはそのまま、複数の男女混合の使用人たちが待ち構えている部屋にまで連れていかれた。最初にされたのは服を脱がされる事で、そのまま、別の服をルキウスに着せ始める。


「え、な、えっ?」

「急げ急げ、絶対に間に合わせるぞ!」


 混乱するルキウスの周りでリーダー格らしき使用人が指揮を取る。

 器用にルキウスに服を着せる者がいる一方、ある者はルキウスの顔に何かを塗りたくり始める。反射的に逃げようとするルキウスを、母親ぐらいの年の侍女が「動いちゃいけませんっ!」と叱る。

 大人しく顔中に何かを塗りたくられ、髪の毛を整えられ始める。


「目はどうする?」

「いつも通りの布は駄目よ。野暮ったいわ」

「眼帯ならこのあたりはどうかしら」


 侍女たちがそんな話をしている横で、ルキウスは顔見知りの使用人によってタイを結ばれた。


「あの、何が……?」

「後夜祭だよ。お前も参加するからな」


 その言葉で、ルキウスは気が付いた。ルキウスは後夜祭への参加を裏方の業務として考えていたが、裏で動くだけならば使用人用の服で十分だ。そうではなく、今自分が着ているのは紳士服などと言われるものだ。


「え……え? な、中に?」


 ルキウスが口を引き攣らせながら言うと、タイを結び終えた使用人は不思議そうな顔をする。


「当然だ。お前は此度の狩猟祭の優勝者だぞ」


 狩猟祭の優勝者は、後夜祭において主催者――今回であればブラックオパール伯爵――から優勝者として褒美を受け取る事となる。実際の物のやり取りは後からとなる事が多いが、口頭でどんな物を与えるかを周りに見せるのだ。


「む、無理ですッ! ま、マナーも何も、とても、出れない……!」

「今回は後夜祭だ。厳格なマナーは問われないし、参加者も男が圧倒的だ。細かい所作も見逃されるだろうさ。何より、お前のフォロー役も傍に付く。安心しろ」


 安心出来る要素が皆無である。どんな風にするかも分からない仕事を、その場で突然やれと言われているようなものだ。

 しかしルキウスがどれだけ拒否しようと、準備は進んでいく。


「狩猟祭は実力と運だけが問われるからな。ちょくちょく、貴族じゃない人間やあまり階級が高くない者が優勝する事がある。参加者はそれを心得ている。大丈夫だ」


 ルキウスは首を振るが、使用人たちはそれ以上構う様子はなかった。


 侍女に眼帯をつけられ、髪をよく分からない物で固められる。


 そして極めつけに、侍女の一人が小さな宝石箱から何かを取り出した。

 ブローチだ。

 小ぶりの黒蛋白石(ブラックオパール)が、ついている。


 流石のルキウスも、それが誰に着けるつもりの物か、分かった。


「そ、それっ!」

「お前がどこの家の人間か、しっかりと主張しておかないとだからな。ちなみにこれを付けるのを決めたのは伯爵様だ」


 彫像のように固まったルキウスの胸元に付けられる。


 ダラダラダラとルキウスの体は冷や汗が流れ出した。

 小ぶりであろうと、宝石は宝石。ただの平民でしかないルキウスにとっては、遠い遠い品物だ。


「だッ……代役、とか……別の方、とか……」

「肉食ペリカンを運んだ時にあれだけ目立っていて、今更代役が立てられる訳がないだろう。これも仕事だと思って諦めろ」


 がくりと、ルキウスは肩を落とした。

「家名」と「宝石(物)」の見分けのために、和名にルビを振ってみました。暫く使ってみて私の中でしっくりこなかったら後々、修正します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 当初は、白眼視されていたルキウスが。 もうすっかり、ブラックオパール伯爵家の身内扱いですね。 [気になる点] ご褒美(の一部)は、近いうちの騎士叙任を前提とした従卒登用、それに伴う、ルキウ…
[一言] 栄誉ある立場でもルキウスにとっては重荷なんだな…
[一言] これでブラックオパール伯爵がルキウスに両親の墓の権利(に絡むもの)以外を与えてきたら伯爵に引くな
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