【66】狩猟祭Ⅷ
一部描写を加筆修正いたしました。
ルキウスはあれほどの大きな音で鐘が鳴ったにも関わらず、寝そうであった。
まず体が限界過ぎた。
それから、彼は狩猟祭に参加する心算もなかったし、殆どの人は「知っていて当然」という部分である、手順を彼に細かく説明していなかった。なのでハンカチーフについても知らなかったし、仕留めた獲物をハンカチーフの持ち主の所に届けに行かねばならない事も知らなかった。
もうルキウスの心は、定められた時間に間に合った事で満たされていて、彼の瞼は完全に落ち、そのまま意識も――落ちれなかった。
「寝るなッ!!!」
というオットマーの大声が、ルキウスを寝かせてくれなかったからだ。
「獲物を捧げないと終わらないぞ!」
「そうだ。皆、手伝ってくれ!」
「勿論だ!」
オットマーの言葉にトビアスが同意し、周囲のブラックオパール伯爵家の騎士仲間たちに助けを求める。騎士たちは各々森を駆け回りつかれているだろうに、快く引き受けると巨大な肉食ペリカンの体を持ち上げ始めた。
「?」
寝ていたところを叩き起こされたような心境で、ルキウスは自分の肩を掴んでいるオットマーや周囲の見知った騎士たちの動きをぼんやり見つめていた。
オットマーは同僚の持ってきた布でルキウスの顔を拭った。顔の汚れはほぼ返り血や泥のたぐいであり、軽い擦り傷などもあったがそこまで問題はなさそうであった。
オットマーは次に、ルキウスの服をめくった。腹や背中を強く打ったとみられる箇所は見られたが、触ってもルキウスは反応しなかった。見た目はかなり酷いように見えるが、体にはそこまでダメージがなさそうだと判断しつつ、本人にも確認を取る。
「ルキウス。痛みは?」
「いえ…………とくには……」
ルキウスはそう答えながら、自分でも不思議に思った。体に疲れはもちろんある。痛みもない訳ではない。だが、先程より痛くない気がした。
一方、集計所の近くに来た平民たちは、肉食ペリカンを見ると飛び上がって騒いだ。
「巨大肉食ペリカンだ、あいつが、あいつが倒された! 倒されたぞ!」
うおおおっと平民たちが騒ぐ。それを聞いた周囲の人々は「あれが……」「あんなの化け物じゃないか……!」と更に騒いだ。
周囲の反応をさておいて、どこからか走ってきたブラックオパール伯爵家の騎士の一人がトビアスたちに向かっていう。
「早く見せに行け!」
「勿論だ。――オットマー。行けそうか?」
「ルキウス。立てるか? よし」
問題なく立ち上がったルキウスだが、見た目は返り血も相まってボロボロのような状態だ。
「先ほどみたいにルキウスに運ばせよう。勿論、実際に運ぶのは我々だが、ルキウスが先頭を歩くんだ。インパクトがかなりあるはずだ」
「それだ」
騎士たちの同意は得て、ルキウスの同意は意思を尋ねる事さえされなかった。
ルキウスは無理矢理立たされて、先ほどのように肉食ペリカンの体を背中に背負った。重さはない。ルキウスが引き摺っているように見せて、殆どが周りの騎士たちによって運ばれている状態だからだ。
「??」
言葉を失ったように混乱したまま自分を見つめてくるルキウスの背中を、オットマーとトビアスは叩いた。
「大丈夫だ。私たちが横にいる」
「ああ。とりあえず、私たちの指示に従って動いてくれ」
とりあえず、こくりとルキウスは頷いた。




