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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第二粒 ルキウスと狩猟祭
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【60】巨大肉食ペリカン

 それが実在の動く生き物であると、ルキウスは最初理解出来なかった。それほどに、その存在は異様で非現実的だった。


 一般的な肉食ペリカンは、大人の胸程の高さ。先ほどルキウスたちが仕留めようとして失敗し、最終的にバルナバスが仕留めた肉食ペリカンは、大人の頭より顔が高い位置にあった。

 そうはいっても、まだ大きな鳥のような生き物という風体をしていた。


 だが今目の前にいる存在は、違う。


 木の幹のように太い首部分。岩のような大きな頭。そこから伸びる嘴部分だけで、恐らくルキウスの体を飲み込めるだろう。

 大地を踏みしめるあまりに太く大きな足は、そこに横たわっていた古い木の上に置かれると――あっという間に、木を粉砕した。


「あ、ぁああ、ぁああああ!」


 男が悲鳴を上げる。


「ば、化け物、化け物が、ああああ!」


 男が耐えきれないとばかりにそう大声を上げると、威嚇されたとでも思ったのか、肉食ペリカンはその立派な口を大きく広げながら、先ほどより大きな声で咆哮した。


「ギャアアアアアン!」


 ルキウスはその音で我に返ったように、背中の矢筒から一本の矢を取り出して、弓に番えた。


(まずい)


 肉食ペリカンは、間違いなくルキウスとこの男を視界に捕らえて狙っている。口元が赤く汚れている事から、食事中のところを邪魔されたのか……それとも終わった所だったのか。

 どちらかは分からないが、ルキウス達自身が次の獲物として完全に狙われているのは、その血走った瞳の様子からして確かだった。

 ちらりと、横の男を見る。腰を抜かしているようで、顔から出せる全ての汁を出し、叫び続けながらも動く気配はない。


 ルキウスは立ち上がり、矢を構え――即座に打った。

 顔は狙わない。先ほどのように嘴で弾かれると思ったからだ。なので最初から、一番面積が広く狙いやすい腹の当たりを射た。


「ギャッ!」


 肉食ペリカンの反応はルキウスが期待したものと比べると小さかったが、その瞳に映る人間が己一人になった事をルキウスは確信した。


「俺が、ひきつける。早く、逃げろ!」


 ルキウスは男にそう檄を飛ばして、再び矢を肉食ペリカンに撃ちながら、移動をし始めた。


 ルキウスの望み通り、肉食ペリカンはそこで倒れ込んだままの男には目もくれず、自分に痛みを与えるルキウスの事を追いかけて来始めた。


 巨大な肉食ペリカンの移動速度はルキウスの想像以上に早かった。ルキウスの予定では男から離れた所まで誘導してから撒くつもりであったのだが、それが不可能そうである事をルキウスは直に悟った。


 肉食ペリカンはその巨体さ故に、森の中を移動するのも苦労するだろうと思っていたが……獲物を追う事にのみ意識を集中させてきた肉食ペリカンは、体に当たる全てをなぎ倒しながら移動してくるのだ。

 流石に木を折りながらとなると最高速度は出せないようであったが、それでもその速度は、ルキウスに完全に逃げ切れるほどの余裕のある距離を与えなかった。


(――倒すしかない?)


 あれを?


(無理だ)


 どう見たって、人間が手を出して良い領域を超えた存在だ。


(なんとかどこかで隠れて――)


 そう考えた時、背後に迫る気配が一瞬、消えた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 幾ら自己評価の低い主人公でも、この化け物を単独で倒してのけたら、流石に、意識に変化が出るのではないでしょうか。
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