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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第二粒 ルキウスと狩猟祭
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【53】狩猟祭Ⅱ

 人の手があまり入っていない森は、鬱蒼としている。

 普段人が通っているのだろうなという道はあるが、そこを沿って歩いていても獣には出会えないだろうと、早々に道なき道を三人は移動し始めた。


「中々いないな。トビアス。音はどうだ?」

「…………西の方角でやたら弓を放っている音は聞こえる」

「よし、西から離れよう」


 騒げば騒ぐだけ、その音を聞いた動物たちは逃げていくだろう。運が良ければ逃げてくる動物と出会えるかもしれないが、西で大騒ぎをしているらしい者とは違う所に行った方が良い。


 ルキウスは先行するトビアス、オットマーに続く形で森を歩き続けた。


 トビアスは聴力に優れている。実際のところどの程度まで聞こえるのかはルキウスは知らないが、常人の数倍良いという事は知っている。

 そんな彼の聴力を使えば、動物を見つける事はさほど苦労しない。ただし、狩猟祭の獲物として満足なレベルの動物となると、中々見つからなかった。


 どれぐらい歩いただろうか。


「――いた!」


 木の陰などに隠れた三人は、トビアスの先導でやっと満足のいく獲物を見つけた。

 三人は目的の獲物に気取られないように、小声で会話をする。


「おお……随分大きな肉食ペリカンだな」


 オットマーの言葉通り、そこには岩陰の穴に作っている巣穴から出てきた、一頭の肉食ペリカンがいた。

 一般的な成体の肉食ペリカンは成人の胸程度までの高さがある訳だが、三人が見つけた肉食ペリカンは三人で一番背が高いだろうトビアスより頭の位置が高いかもしれない。


「そういえば聞いたかオットマー、ルキウス。最近この森には巨大な肉食ペリカンが出るそうだ」

「ほう。あれか?」

「さあ。だが可能性は高いかもしれないな」

「なんにせよ、他の参加者に見つけられる前に仕留めよう。――ルキウス」


 名前を呼ばれたルキウスはこくりと首を縦に振った。

 そして持っていた弓を番え、肉食ペリカンの頭を狙った。


 ひゅん、と矢は風を切った。


 しかしその矢が飛ぶ音に気が付いたのか、肉食ペリカンが頭を振り、矢はその嘴のような上顎にぶつかり弾かれ、地に落ちた。


 キヒャァ! という肉食ペリカン特有の声が上がる。大きく開かれた肉食ペリカンの口の中には、一般的な鳥類であればないだろう、立派な牙が生えているのが見えた。


「ギヒャアア!」

「逃げたぞ、オットマー!」

「逃がすかっ」


 オットマーは道もなければ酷く歩きにくいだろう森の中を、身軽に進んでいく。勿論、トビアスとルキウスも立ち止まってはいない。

 三人は逃げ出した肉食ペリカンを追いかけて、森の中を疾走した。


「意外と早いなっ!」


 トビアスの言葉通り、肉食ペリカンはその巨体に対して走るのが意外と早い。幸いなのは、前にある障害物を避けて歩く……というよりも、障害物を弾き飛ばして走るので、肉食ペリカンが通った後は走りやすくなっているという事か。


「――ふっ!」


 オットマーが振るった剣先が肉食ペリカンの尻を切り付けた。肉食ペリカンが、転んだように倒れ込む。


「もらっ――!?」


 オットマーが止めを刺そうと剣を構えた次の瞬間――別方向から飛んできた矢に気が付き、後ろに大きく跳ね飛んだ。

 ルキウスはその弓の羽が、鮮やかな緋色に塗られている事だけは見えた。


「誰だ!?」


 オットマーがそう声を張り上げている間に、ひぎゃ、ひきゃっと肉食ペリカンは態勢を立て直して走り出し、大きく跳躍し、消えた。

 あの体格の肉食ペリカンが隠れられるような草木はない。三人が周囲を警戒しつつ肉食ペリカンが消えたあたりに近づくと、どうやらある箇所で行き止まりになり、馬が三頭横に入りそうなほどの高さの崖になっていた。

 眼下でがさごそと、肉食ペリカンが動いているらしい位置は見えたが、流石にここを飛び降りるのは困難だ。


「急いで降りるぞ。他の参加者に仕留められる!」

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