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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第二粒 ルキウスと狩猟祭
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【52】狩猟祭

 やっと始まりました。長かった。

「本日は我がブラックオパール伯爵家が主催する狩猟祭に参加いただき、有難う。参加する皆が、怪我をせず、また、神と精霊の威光が我々に届く事を心から祈る。――威嚇の精霊よ、どうか皆を守り給え――」


 ルイトポルトの父、ブラックオパール伯爵の宣言により、狩猟祭は始まった。

 野太い男たちの歓声が沸き上がり、女性たちの拍手に見送られ、人々は森へと走り出した。


 ――最近やっと少し理解できるようになってきたが、どうやら今までルキウスがざっくりと「精霊」と思っていた存在には、細かく違いがあったらしい。ルキウスも水の精霊や炎の精霊なんてのは知っていたが、もっと抽象的な精霊もいるらしいのだ。

 メルツェーデスも、それからルイトポルトなども、精霊の名を出すときによく威嚇の精霊、と言っている。なんだか物騒な気もして、穏健派らしいブラックオパールには似合わない気もするのだが……まあ、そのあたりはぼんやりと祈りをささげるだけのルキウスが口を出す事ではないだろう。聖なる書物などを読めるのは、やはり貴族などの高い身分の物に限られる。


 精霊の名前はさておいて、ルキウスはトビアスとオットマーが自分の傍にいて、ルイトポルトの傍にいない事に今更ながら気が付いた。てっきり、トビアス、オットマー、ルイトポルトのいつもの面々にルキウスが加わると思っていたのだが。


 その点について尋ねると、トビアスは不思議そうな顔をした。


「おや、他の従者たちから聞いてなかったのか? 本日は他の騎士がルイトポルト様と行動するんだ」

「我々が共にいたのでは、ルイトポルト様の機会を邪魔してしまうかもしれない。同時に、我々が護衛にばかりついていては、他の騎士たちが貴人の護衛を経験する機会を奪ってしまう」

「そんな訳で、我々は今日はルイトポルト様とは別行動。代わりにルイトポルト様が万が一満足の行く獲物を取れなかったとしても問題ないように、出来る限り立派な物を仕留めなくてはならないがな」


 そういったトビアスの手には、黒い布地に赤の刺繍が入った――ルイトポルトのハンカチーフがある。

 一方で、トビアスの言葉を聞いたオットマーはふふんと鼻を鳴らした。


「それはトビアス、お前に任せたぞ」


 そういったオットマーの手にあったのは黒い布地に赤の刺繍――ではなく、灰色(・・)の布地に()の刺繍が入ったものだ。

 それを見たトビアスは大袈裟に頭を振った。


「ああそうだった、そうだったな……! お前は新妻に獲物を捧げるんだった……はあ、私が一人でなんとかするしかないのか……」


 オットマーは少し前に結婚している。

 その結婚相手の事を思い出して――あ、とルキウスは口を開いた。


(もしや、このハンカチーフは作った人の髪色なのか?)


 そうすると色が噛み合う。各々の髪色の方がもっと不思議な魅力のある色彩だが、ルイトポルトは黒地に赤。メルツェーデスは黒地に青。どちらも髪の毛に主に合われる色と同じだ。

 そしてオットマーの妻は、黒――というにはやや灰色に近い髪色をしていて、そこに交じる色は確か緑であった。


(そういう決まりなのだろうか)

「そういう訳だ、悪いが今回は途中から別行動になるかもしれんが、よろしく頼むぞトビアス」

「ああもう、勝手にしてくれ! せいぜい奥方様に愛想をつかされないような獲物を仕留めるのだな」


 そんなトビアスとオットマーのやり取りを、一歩下がったところでルキウスは聞いていた。


 二人の会話がひと段落ついた所で、三人は各々ハンカチーフを無くさないように懐にしまい込み、森の中へと入っていった。

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