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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第二粒 ルキウスと狩猟祭
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【50】狩猟祭に向けてⅦ

「えっ。ハンカチーフ? もうないぞ!」


 トビアスらにハンカチーフを求められたルイトポルトは、ぽかんとしつつそう言った。


「しまった、遅すぎた」

「どうして今更……二人にはもうハンカチーフを渡しただろう?」

「いえルイトポルト様。我々の分ではなく、ルキウスの分です」


 そうトビアスが補足した次の瞬間、ルイトポルトは赤い目を見開いてルキウスを見た。


「ルキウス、参加するのかっ!?」


 自主的な参加ではない。ないが、実際、参加する事になった。

 こくこくと頷いたルキウスは、同じ天幕の中にいた伯爵夫妻とメルツェーデスからの視線が突き刺さり、だらだらと冷や汗を流した。

 特に、まだ会話をした事があるメルツェーデスと違い、ルキウスからして伯爵夫妻は天の上の人間である。まともに顔を見る事すら、恐れ多い人たちなのだ。


「どうしてもっと早く言ってくれなかったのだ! 言ってくれればお前の分のハンカチーフも絶対に用意していたのに!」


 ルイトポルトはそう憤慨して、ルキウスの腕をつかんで前後に揺さぶった。


 よく分からないが、どうやらハンカチーフはよほど重要な物らしい……という事だけは理解した時、ルイトポルトが何かに閃いた。


「そうだ!」


 そのままルイトポルトはルキウスの腕をつかんで、引き摺って行く。引き摺って行かれた先は、メルツェーデスの席であった。


「叔母様っ、ハンカチーフは余っておりませんか? ルキウスも狩猟祭に参加するそうなのです! 私のハンカチーフはもう無くて……」

「あるけれど……わたくしの物でよいの?」

「はい!」

「そう。では……ジゼル」


 てっきり先ほどのようにゼラフィーネが抱えているバスケットから出すのかと思ったが、そうではなかった。声をかけられたジゼルが、メルツェーデスのすぐ傍におかれた小さなバスケットの中から、一枚のハンカチーフを取り出す。


「ルキウス」


 名前を呼ばれ、ルイトポルトに背中を押され、ルキウスはメルツェーデスに近づいた。立ったままだと失礼かと思い(何せメルツェーデスは椅子に腰かけたままだ)、腰を落とす。


「手を」


 言われるがままに片手を差し出すと、その上に一枚のハンカチーフが置かれた。

 大き目の薄く黒く染められたハンカチーフには、青い糸で刺繍が入っている。大きくはないものの、右下に縫われているのはブラックオパール伯爵家の家紋だった。


 ハンカチーフを手にしたルキウスの手をそっと、メルツェーデスの指の細い両手が包み込む。ギョッとして引きそうになったが、ギリギリで手を引っこ抜くのだけは耐えた。


「神と威嚇の精霊のご加護が、貴方にありますように……。ルキウス。獲物を仕留める事も大事ですが、どうか怪我無く、帰ってきてください」

「……? は、はい」


 よくわからないが、怪我などしない事を祈られた事だけは分かり、ルキウスは頷いた。


「よし。これでルキウスも歴とした狩猟祭の参加者だ。私の競争相手(ライバル)でもあるという事だな! お前ならきっと、素晴らしい獲物をしとめると信じているぞ」


 ルキウスは片方しかない目を剥いて、助けを求めるようにトビアスらを見るが、二人は「頑張るぞ!」などと的外れな事ばかりをいう。トビアスは普段からそういう所があるので良いが、そういうのを諫めているオットマーまでように興奮してそんな様子なので、ルキウスは訳が分からなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] みんなして応援してるのはいいけど、だれか説明してあげて
[一言] 1人、分かっていない男ルキウス がんばれ!
[一言]  本人の意思とは関係なく外堀が埋まっていく‥‥‥。  まあ、頑張れ(遠い目
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