【45】狩猟祭に向けてⅡ
狩猟祭の参加者は、様々な者である。
最も多い数を占めるのは、伯爵家の傘下とも言える分家の人々。多数のブラックオパール子爵家、そして更にその下にあり、子爵家より多い無数のブラックオパール男爵家の人々が参加している。
貴族が集まると目に痛い、なんて平民の冗談があるのだが……なるほど、本当に目に痛いとルキウスは思った。
伯爵家の人々は皆、不思議な色彩の髪や目の色をしている。これは伯爵家に仕える人々もそうであるが……。
例えばルイトポルト。
彼(に限らずブラックオパール家の人々)の髪の毛は、大きな目で見れば黒髪だろう。
だがより正確にいうのであれば……黒髪に、赤やオレンジ、黄色が散ったような不思議な色彩なのだ。
仕え始めてから気が付いたが……どうやら光の当たり方で黒い髪の毛が別の色に見えるらしい。
この法則は他の人々にも当てはまる。
メルツェーデスはルイトポルトと違い、様々な青色と、少しの緑色が混じったような髪をしていて、トビアスは緑がちらちらと見え隠れしており、オットマーはルイトポルト同様赤っぽい(ルイトポルトと比べると、オレンジみが強い)。
そういう土地なのかと思ったが……どうやら、そういう血脈らしい。
右を見ても左を見ても、誰も彼も黒い髪の毛が、太陽の光にあたってチカチカと様々な色を見せている。
数が多すぎる。
ただまあ、ルイトポルトの専属使用人の先達曰く、黒い髪の毛で他の色が交じって見える人は皆ブラックオパール一族であると分かるそうなので、貴族に詳しくないルキウスにとっても……分かりやすいは、分かりやすい、の……かもしれない。
ちなみにそうした参加者が最も多いが、勿論他もある。
「白い髪の毛に、黄緑や水色が見える髪の毛の人間はホワイトオパール一族の人間と思ってよいぞ」
との事であった。数人既に見かけているが、老人のように真っ白な髪が、光にあたって黄緑や水色に光る、これまた不思議な髪の毛をしていた。
(貴族は摩訶不思議だ)
単純な黒髪だとか茶髪だとか赤髪だとかの平民ばかりの故郷がやや懐かしくなる。
「あとはあのあたりの……緋色やオレンジっぽい髪の毛の集団は、ファイアオパール一族だ。ホワイトオパールとファイアオパールの一族の人間には、特に意識して接するように」
とは言われたものの……ルイトポルト付きの使用人であるが、ただの従僕である。もしルイトポルトを尋ねる者が来たとしても、対応して会話をするのはこの指示をくれた使用人である。ルキウスはしたとしても、飲み物や茶菓子を出す事だろうが……そうした仕事は侍女がするだろうから、奥に引っ込んで狩猟が終わるのをひたすら待つだけだ。
ブラックオパール伯爵家の直属の分家の人々、そして三オパールの一族の人々。
そのほか、別の一族ながら領地が近い貴族家も数多く参加している。
中にはルキウスも知っているような遠い土地から来ている貴族もあり、驚くルキウスにルイトポルト専属使用人たちは不思議そうな顔をした。
「驚く様な事かしら。何せこの狩猟祭で目立つ活躍が出来れば、伯爵家に取り立てて貰えるかもしれないわ。特に、身一つで生活を立てなくてはならない者たちにとっては、他とない機会でしょうね」
「勿論。我が伯爵家の騎士たちも多数参加するからな、優勝するのはきっと彼らだろう」
確かにトビアスもオットマーも参加するといっていた。既に取り立てられている身であるが、そのような人でも狩猟祭で優勝した――という事は、とても自慢出来るので、目指すのは当然との事。
「お前たち。馬鹿な事を言うな。今日優勝されるのはルイトポルト様だぞ!」
雑談していた使用人たちを、最も古株の使用人が、一同を叱責した。
(確かに、はりきっておられた……)
今日のために父親がくれたという弓を、わざわざルキウスに見せてきた程だったのだ。
実際のところ、ずっと鍛え続けているトビアスらのような騎士に敵うのかは分からないが……ルイトポルトが満足のいく狩猟祭を過ごせればよい。ルキウスはそう思った。




