【44】狩猟祭に向けて
なんとか落ち着いたので、また数日おき投稿が出来るように頑張ります。……が、時折また途切れるかもしれません。よろしくお願いします。
狩猟祭は、ルキウスが知るどの祭りより豪華であった。
よくよく考えれば、普段、どこかの貴族や富裕層が来る事のない片田舎の町で行われていた祭りなんて、対して大掛かりなものではないのかもしれない。しかし今までのルキウスが体験してきた祭りは、たいていそのレベルのものばかりだった。
狩猟祭、という名の通り、メインは狩猟である。
夕方の手前まで狩猟が行われ、夜になる前に優勝が決定される。
その後、会場から少し離れた所にある町の館にて、参加者たちは招かれて後夜祭が行われる。
主に男性は前半に、女性は後半に重きを置いているとか、いないとか。
ブラックオパール伯爵家の領地は広く、また、いくつもの森や山が存在する。ルキウスがルイトポルトらと最初に出会った森もその一つだ。そうした森や山の中の一つである、ある森が今回の狩猟の会場として選ばれた。
森からほど近い草原に、何日も前から準備された簡易的な天幕がいくつも張られている。貴族の女性はその下で侍女らに扇で仰がれていた。ただでさえ暑そうな服装なので、日陰でなければまともにいる事すら出来ないだろう。
この天幕は、狩猟を行う者たちのための場所ではなく、父や兄弟、夫や息子が参加するためにここまでやってきた貴族女性たちが待機するスペースである。沢山の天幕が並ぶ場所からほど近い所に、一際大きな天幕があり、そこは主催者であるブラックオパール伯爵家の人々がいる場所であった。
そのため、貴族の令夫人や若い令嬢をもてなすために様々な必要な物品が持ち込まれており、彼女らを世話するための人間も各々やってきていて、かなりの人数が出入りをしている。
先ほども言ったように狩猟を行う者達が待機するための場所ではないが、一番最初はここで開会を宣言する挨拶などが行われるらしい。
その草原から、より森に近い箇所に、狩猟に参加する者達の待機場所がある。
老若様々な男たちが、自慢の武器を握り準備をしている。天幕に比べると男臭く、始まってもいないのにどこか汗臭い空間である。
そして、狩猟の会場となる森。
この大きな森で参加者たちは動物を狩る。最も凄い成果を残せたものが優勝だが、ここはさじ加減だとルキウスは聞いた。
つまり、たった一頭しか仕留めておらずとも誰も文句が言えぬほど立派な獲物を仕留める事が出来れば優勝となる可能性がある。
逆に、狩猟は空が茜色から夜色に代わる前までという決まりが今回はあるため、その時間までに誰よりも多くの獲物を仕留める事が出来れば、その仕事の早さを認められて優勝する可能性もある、と。
「究極的にはその時の主催者がどちらを重んじるか、というのが重要視されるが……何にせよ、名のある者が主催する狩猟祭で優勝すれば、それはそれはもう高い名誉を得る事が出来るという事だ!」
いつになく興奮した様子で、オットマーはルキウスにそう語った。まだ、会場に移動する前の雑談での出来事であった。
ルキウスは主に、今回の主役であるルイトポルトの荷物を運搬する役として参加している。主な仕事は荷物の運搬、そして移動中のルイトポルトの話し相手である。
荷物を運ぶのは慣れているし、ルイトポルトの話し相手もなれている。場所が屋敷の中ではなく外であるという点を除けば、普段の仕事と特に変わりはない。
――と思ったが、一つ困った事があった。
コソコソ。
コソコソ。
「ねえみて、あの使用人」
「まあ、一体どこの家の使用人?」
視界が効かない方向から、そんな声が聞こえてくる。
はあ、とルキウスは荷物を運びながらため息をついた。
――当たり前であるが、片目を隠している人間というのは、それは目立つのである。
ブラックオパール伯爵家の人々はもうルキウスが隻眼である事には慣れており、殆ど口に出される事もない。
だが狩猟祭に参加するためにやってきた、数多の貴族の人々は違う。
男性はまだ、ルキウスが片目を隠している事に頓着をそこまで見せないが、女性はどうやらそういう普通と違う見た目に恐怖を覚えるようであった。
まあ、それでも先ほどのようにこそこそと遠くで囁かれる程度なら可愛いもので、先ほどなどは近くを通っただけなのに、「近寄らないでッ!」と令夫人に叫ばれ、その家の使用人たちに突き飛ばされた。持っていた荷物を落とさなかったから良いのだが。
(早く仕事をこなそう)
主役という事もあり、ルイトポルトの荷物はかなり多い。ついてきた専属の侍女たちなどは狩猟には付き添わないが、着替えなどその他雑貨を揃えて、ルイトポルトの席に控える事が決まっている。ルイトポルトが戻ってきたら、すぐに着替えられるように準備が整えられているのだ。
そうした様々な荷物をルキウスは、主催席の天幕へ急いで運んで行った。




