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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第二粒 ルキウスと狩猟祭
42/144

【41】ヘラ

「貴方は変わってしまったわ、フーゴ」


 離れた部屋で、夫が暴れている音が聞こえる。その音に怯えている愛息子のハンスを慰めながら、ヘラはそう呟いた。


 ヘラとフーゴの結婚は、ヘラの父とフーゴの父が勝手に決めたものだ。結婚が決まってから、一度もフーゴに会う事がないまま、ヘラは隣の領地である土地に嫁いできた。


 寂しいと思った事は数多かった。それでも我慢できたのは義理の妹のエッダはいつも明るかったし、義理の母は嫁いびりなんてしてこなかったし、義理の父は実父と違い馴れ馴れしくしてこなかったし……。

 何より、夫であるフーゴは優しくて、気遣いの出来る男だった。


 家の食器を落として割ってしまった時、フーゴはヘラを責めるより、ヘラに怪我がないかと聞いてくれた。

 家業の手伝いで失敗した時も、ヘラを慰めてくれた。


(この人と結婚出来て良かった)


 そう思ったのは嘘ではなかった。


 その気持ちは一人息子であるハンスを産み落とした後も変わらなかった。


 フーゴも義父母も、嫁いでいったエッダも、その夫で義理の弟という事になったゲッツも、ハンスを可愛がってくれた。


「立派になれよハンス。俺や親父みたいに、妻を守って、家を守れる男になれよ」


 そう囁いてハンスをあやしていた夫の姿を、ヘラは覚えている。覚えているのだ。


 ――だが、彼は変わった。


 義理の妹エッダは、結婚しているにも関わらず他の男にうつつを抜かした。店の評判にも関わるので絶対に止めさせた方が良いと思ったが、それをフーゴにいうと、フーゴは珍しく険しい顔をしてヘラを叱咤した。


「これは我が家の問題だ。ヘラ。口出しするんじゃない」


 確かに、嫁ぎ先の家族関係について口を出す事はあまりよろしくなかったかもしれない。特に、エッダは既に他所に嫁いだ娘だ。

 義母からも、エッダの事は口を出さないでくれと言われ、ヘラは何も言えなくなった。

 それきり、義理家族はヘラに対してエッダの問題の情報を一切流さなくなった。ヘラもハンスがよく動き回る年頃だったので、息子の世話に明け暮れていて、あまり気にかける事も出来なかった。


 とはいえフーゴはエッダを諫めてなんとか変な噂が立たないようにするのだろう――そう思っていたのに、彼がしたのは真逆だった。


 彼はエッダの浮気を後押ししたのだ。

 信じられなかった。


 ヘラが気が付いた時にはエッダの浮気は何故か正当化するような噂が流れ、エッダの夫だった義弟のゲッツは町を追い出されていた。

 酷い追い出し方だったと、人づてに聞いた。


「エッダは男爵様に見初められたんだぞ。あんな荷物運びしか能がない奴と、男爵様を比べるなんてバカバカしい」


 どうしてそんな事をしたのかとフーゴに聞いた時、彼はそういった。


 男爵。この領の領主。

 その人に、エッダは見初められた。

 それを知った時、ヘラは頭の中が真っ白になった。

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