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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第一粒 妻が貴族の愛人になってしまった男
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【4】ルイトポルト・ブラックオパール

突然視点が変わります。しばし男の子のお話をみていただくことになります。

 ルイトポルト・ブラックオパールは、ブラックオパール伯爵家の嫡男だ。伯爵家で父と母と、叔母と暮らしている。


 ルイトポルトは元気盛りの十歳。最近の趣味は、馬に乗って出かける事だった。

 ここ最近は毎日毎日馬乗りに出掛けていた。最初は何もない花畑だったが、最近は近くの森の中に行く事が多い。


「ルイトポルト様っ! それほど速度を出しては危険でございます!」


 背後で侍従たちがそんな事を言っていたが、馬に乗って走るのが大好きなルイトポルトの耳には届いていなかった。馬は人間より早く走れる。それがまるで風になったかのようで、ルイトポルトは手綱を握ってあちらへこちらへ……。後ろに意識など割かずに走り回っていたルイトポルトは、気が付くと一人になっていた。


「あはは! 楽しいなぁ。……あれ? オットマー? トビアス?」


 ある程度走り回って満足し、足を止めると、いつも傍にいる侍従二人の姿が見えなくなっていた。気が付けば森の中にはルイトポルトと愛馬しかいない。


「オットマー! トビアス!」


 ルイトポルトは愛馬を促して、必死に侍従たちを探して歩き回った。しかし二人は見つからないし声も聞こえない。その上、最近よく行く森よりも奥の森に入ってしまったのか、なんだか森の中が暗い。


 こういう暗い森には、悪い魔法使いが暮らしている。


 寝物語に聞いた話を思い出し、ルイトポルトは一気に怖くなってしまった。


「オ、オットマー、トビアス……」


 男児だから泣くもんかと思いながら、ルイトポルトは森を彷徨った。右も左も前も後ろも木ばかり。もうどうしたらいいのだろう。少年の心はどんどんと絶望という黒い液体に満たされていく。


「う、うぅぅ」


 耐えきれず嗚咽を漏らしだしたルイトポルト。心配したように馬は立ち止まる。実際は心配もあったが、ルイトポルトからの指示がないために進めばいいのか立ち止まればいいのか分からず動きを止めていたのだった。

 ……その時、木々の間、伸び放題になっていた雑草の合間から、影が飛び出して馬に飛び付いた。


「ひひーん!!」


 馬は突如現れた下手人に驚き、顔に飛び付いてきた犯人を振り落とそうと、大きく首を振る。同時に両耳で他にも攻撃をしようと潜むものがいると気が付いた馬は、威嚇のために両前足を高く上げ、後ろ足だけで立ち上がった。


「うわぁっ!」


 泣いていたルイトポルトは耐えきれず、そのまま馬の背から滑り落ちてしまう。

 草の上にルイトポルトは転がったが、彼の顔のすぐ横を、混乱している馬の足が動く。あと少し落ちた位置が違えば、馬に蹴られていた。


「ひひん、ひひ、ひひーーん!」

「ガウッ!」


 狼だ。ルイトポルトは血の気が引いた。森に狼がいる事は知っていたが、普段歩く場所は出ない場所……つまり、かなり奥まで来てしまっている事が分かった。

 ルイトポルトはずりずりと下がる。数匹の狼が馬を狙って襲い掛かっていた。馬も餌になるつもりはないと回転しながら後ろ足で蹴り上げる。

 狼に腹を引き裂かれ、馬がいななく。

 馬に容赦なく蹴り上げられた狼は、地面に落ちてピクリとも動かなくなった。


「ひひーん!」


 二匹の狼を蹴り殺した馬は、ついに錯乱して逃走した。それを、他の狼たちが追いかける。

 ルイトポルトはその場でただ、震えていた。

⬛︎ ルイトポルト・ブラックオパール

 ブラックオパール伯爵家の嫡男。


⬛︎オットマー

 ルイトポルトの侍従であり護衛騎士。


⬛︎トビアス

 ルイトポルトの侍従であり護衛騎士。

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