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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第二粒 ルキウスと狩猟祭
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【38】迫る社交界デビュー

 ルイトポルトとトビアスが打ち合いをしているのを眺めている間にオットマーに先ほどの会話で気になった事を尋ねた。


「なんだルキウス。お前狩猟祭の事、知らなかったのか?」


 オットマーはそう簡単な調子で言ってから、狩猟祭というものについて教えてくれた。


「名の通り、狩猟を楽しむ祭りの事だ。毎年、分家や他のオパール二家にも招待状を出して、大々的に狩猟の腕や手に入れた獲物を競い合うのさ」


 毎年という説明にルキウスは首を傾げた。そんな一大イベント、今まであっただろうか。

 そんな疑問をくみ取ったのか、オットマーは呆れ顔になった。


「参加した事がないとはいえ、一切聞いた事がないってのは相当だぞ。まあ、ルイトポルト様は今回が初参加だからな。これまでたまたま耳にしなかったという事も有り得るか?」

「何故。ルイトポルト様は、次期伯爵、なのですよね?」

「ルイトポルト様はまだ社交界に出ておられないからな、狩猟祭は歴とした貴族の社交の場。今までは参加が許されていなかったんだ。だが十三になり、今度、夜会にも出られる。その前に今度の狩猟祭に参加する事が伯爵様からお許しいただいたんだ」


 成程、と納得する。

 ルイトポルトが今まで参加していなかった祭りなので、ルイトポルト付きだったルキウスは知らなかったのだろう。とはいえオットマー曰く伯爵や夫人、メルツェーデスは毎年参加しているようで、彼らが揃って出かけていたのに気が付きもしなかった辺り、自分が周りを見ていない事を感じてルキウスは恥じた。


 そして、ルイトポルトが興奮している理由も分かった。

 子供というのは、大人が自分をのけ者にして楽しんでいる事に酷く羨ましさを覚えたりする事がある。ルキウスは幼い頃、父が酒場に行くのをずるいと思っていた。酒が飲みたかったわけではなく、漠然と、「出来る限り行くのだから、それだけ楽しい場なのだろう」と思っていたのである。

 実際に酒が呑める年になってから連れていかれた時には、思ったよりも楽しくなかったと思ったが。


「そのうちお前も狩猟祭の準備に追われるぞ。今年はエルメントルート様以外、全員参加だ。当然、屋敷の守りに残される者も少なくないが、専属の使用人は殆ど出払う事になるだろうからな」


 普段の遠出と比べて、かなり重大な事なのだろうと予想が出来る……が、ルキウスは自分は到底参加出来ないと思った。裏方での参加ならば良いが、表に出て貴族たちと触れ合うなんて、ルキウスには出来ると思えない。

 そのあたりの希望はそれとなく、ルイトポルト専属の者たちの纏め役に話をしておけばよいだろう。ルキウスの失態も伯爵家の失態になるのだろうから、彼らも受け入れてくれると思われた。


「そろそろ休憩といたしましょう、ルイトポルト様」


 そんな風に意識が横にそれている間に、トビアスとルイトポルトの打ち合いは終わったらしかった。トビアスは涼しい顔をしているのに対して、ルイトポルトは汗をだらだらと流している。

 ルキウスは用意していた冷たい水の張った桶から、沈めていた綺麗な布を取り出した。水けを絞った布をルイトポルトに差し出せば、ルイトポルトは笑顔でそれを受け取った。

 ルイトポルトが顔を布で拭ったのを確認し、ルキウスは別に用意していた飲み水を渡す。ルイトポルトが小さな喉仏を動かしてそれを飲み干して空にすれば、すぐに受け取る。

 そうして必要なくなった道具は纏めて、片づけに行くために歩いた。


 歩く途中で、ふと顔を上げると、大きな窓の傍をメルツェーデスとジゼルが歩いているのが見えた。ルキウスには気が付いていないようで、強張ったような顔のまま、早足に廊下を進んでいく。


 ルキウスの知るメルツェーデスはいつも穏やかな顔をしていた。あのような、どこか険しい表情を見たのは初めてで、何かあったのだろうかとやや不安を感じたのだった。

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