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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第二粒 ルキウスと狩猟祭

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【37】弓

 ルイトポルトの教育内容は、ルキウスにはよく分からないものが多い。ルキウスも簡単な計算だとかは出来る。足すとか、引くとかは理解が出来る。だが乗算だとか除算だとかは、よく分からない。その上、税の額の算出方法なんて話になってきたら、ただの平民として最低限必要な事しか知らない頭はパンクする。

 幸いにもこの勉強はルキウスがしなくてはならない訳ではなく、ルイトポルトがしているのを横で聞いているだけで良い。


 ルキウスはこの数年で改めて、自分は部屋で本を読むだとか勉強するだとかよりも、体を動かす方が性に合っているという事を痛感した。

 体を動かすのは良い。その瞬間に神経を集中させる事もあれど、難しくあれこれ考えなくて良いからだ。剣は結局、まあぼちぼち最低限という程度にしか上達しなかったが、イザークから教え込まれたお陰で、弓の腕はかなり上がっている。その結果ルイトポルトの狩りに連れ出される事になっているが、元々遠出に連れ回されていたのでそこに狩りの仕事が増えただけなので、大して気にしてはいない。


 王都から来ているという、優秀だという教師の説明をルイトポルトは真剣に聞いている。元々ルイトポルトは何かから手を抜く様な性格ではなかったが、エルメントルートが生まれて以降、更に真面目になったようにルキウスは思う(勿論、たった数年しか傍にいない人間の感想でしかないが)。

 弟妹のいなかったルキウスには分からないが、ルイトポルトにとって妹が出来るというのはそれだけ嬉しい事だったらしい。


 ルキウスにとっては小難しくて退屈な勉強の時間が終わった。ルイトポルトは教師に礼を述べて、勉強の部屋から退出する。

 ルキウスは午前の勉強の時間が終わりそうなのを見計らって、事前に外の同僚に知らせる。そうして、ルイトポルトが食事を取りたい時に、丁度で食事が出来上がるように段取りを組む。専属で付く使用人として、大事な仕事の一つだ。


 伯爵や夫人は時間が合わなかったのだろう。広い食堂で、ルイトポルトだけが食事を摂る。そもそも平民は食事をする専用の場所を持つような広い家を持たないから、狭い空間でぎゅうぎゅうになって家族と食事を共にする事が多い。何年経っても、ルキウスにはこの空間がどこか寂しい物に感じてしまう。


「御馳走様。今日も美味しかったと料理長に伝えてくれ!」

「はい、ルイトポルト様」


 食堂の端に控えていた料理人の一人にルイトポルトはそう声をかけてから、期待を隠し切れない瞳でルキウスに振り返った。


「行こうルキウス、今日は凄い物を見せてやるぞっ!」


 語尾が上ずり、ルイトポルトの興奮が伝わってくる。朝からここまでは普通であったのに、急にどうしたというのだろうか。ルキウスは首を傾げながら、彼にしては珍しく大股で歩いていく主人を追った。


「トビアス! オットマー!」


 着替え終わり、騎士の訓練場に着いたルイトポルトが己に付いている二人の騎士の名を呼ぶ。訓練場ではいつもの通り、騎士たちが訓練をしていた。

 彼らは振るっていた剣を止め、現れた主一家に礼をした。


「ルイトポルト様。お勉強はもう終わられたのですか?」

「ああ! トビアス、アレを出してくれ、アレ!」


 興奮しきっているルイトポルトを諫め、トビアスがどこかへ行く。何があるのかとルキウスが首をかしげていると、暫くしてトビアスが戻ってきた。その手には布に包まれた何かがあった。

 ルイトポルトは駆け寄り、そして布をはいで中身を取り出した。


「見てくれルキウス!」


 そういってルイトポルトが掲げたのは、弓だった。


「お父様が下さったのだ、今度の狩猟祭で使うようにと!」


 ルキウスはやっと、先ほどからルイトポルトが興奮していた理由を理解した。父親から貰った物が嬉しくて、ルキウスに見せて自慢したかったのだと。


「素晴らしい物を頂いたのですね」


 弓術の腕はそれなりに上がっているが、武器の良し悪しはそこまで分からないルキウスだが、物の価値が分からずとも、父親から物を貰った時の喜びは十分に分かった。

 だから余計な言葉は使わず、素直に年下の主人を祝福した。ルイトポルトは年相応の笑顔を浮かべて「ああ!」と弓を大事そうに抱きかかえた。

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