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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第一粒 妻が貴族の愛人になってしまった男

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【29】新しい在り方の模索

「中々どうにも、騎士は厳しいんじゃないのか」


 ぜえ、はぁ、と荒い呼吸をしながら地面にしゃがみ込んでいるルキウスを見たオットマーは、トビアスにそういった。


「そうか? 筋は悪くないと思うが」

「ああ。確かにな。もしルキウスが十二、三ぐらいの年齢だったら止めないさ。だがな、騎士見習いをするには年が行っているし、剣の腕が一人前になるよりも、ルイトポルト様の元で安定して仕え続ける方が、遥かに早く目的の物も手に入るんじゃないかと思うぞ。少なくとも、慣れない武器を覚えさせるのが、奴の願いの近道にはならないと思うが?」


 オットマーの忠告に、トビアスも腕を組んで考えた。

 確かに、筋自体は悪くない。が、一番最初に剣を構えた時のあまりにみっともない態勢はよくよく記憶に残っている。見ればわかる。今まで一度も長剣を握った事のない人間の態勢だった。


「ルキウス。お前、いくつだ?」


 荒く呼吸をしながら、ルキウスは指で二と一を連続して作った。


「二十一だったのか。……トビアス、やはり無理だろう」


 騎士になる事そのものは、相応しい実力を持ち、使えるべき主君から騎士叙任を受ける事が出来れば良い。

 だが貴族子弟にしろ平民階級にしろ、騎士になるためには騎士見習いという訓練期間をはさむ事が一般的だ。

 そうして師や主人たる人間の元で修行を積み、能力が一人前になったと認められれば騎士叙任を受け、騎士を名乗る事が出来るのである。大概が、二十ぐらいで叙任を受ける事を考えれば……今更一から騎士見習いなんて受け入れる師の方がいないだろう。


 勿論トビアスも騎士見習いをさせるつもりはない。実力を着けさせ、周りから認められれば一足飛びに騎士叙任が出来るので、そちらのルートでさせるつもりだったが……。


「……なら弓はどうだ?」

「はぁ?」

「そうだ。剣が立派でなくとも、弓の腕があれば十分じゃないか。なあオットマー! しっかりとした弓を持たせればきっと、ルキウスは良い弓使いになれるんじゃないだろうか?」


 最初は「今度は何を……」と思っていたオットマーだったが、ルキウスと最初に出会った時の事を思い出す。


「……意外といけるかもしれないぞ」

「よしっ。イザークの所に行こう!」

「!?」


 やっと息が整い始めたルキウスの両腕を、トビアスとオットマーが掴んで持ちあげた。目を白黒させて連行されていくルキウスの背中を、周囲にいた騎士たちはそっと見送った。


「イザーク、弓を貸してくれ!」

「はああ?」


 伯爵家の第二弓兵隊隊長であるイザークは、突然訓練場に現れた上にわけの分からない事を言い出したトビアスに怪訝な顔を見せた。


「うちの弓は遊びで使うものじゃない。帰れ」

「まあ待てイザーク。お前の言い分は分かるが、こいつの実力がどの程度か把握したいんだ」

「オットマー……お前がトビアスの野郎を止めないでどうするんだ。おいっ」

「まあまあまあイザーク。聞いてくれって」


 トビアスはイザークの肩を親しげに叩いた。

 この二人は同時期に騎士になった仲間であり、友人でもあった。


「イザーク。お前もルキウスの活躍は耳にしているだろう?」

「それは主家の御方を救ったんだからな。だが何故弓を使う話に繋がる?」

「情報が足りないようだなイザーク。初めてルキウスがブラックオパールを助けたのは、ルイトポルト様の御命を救った時の事だ。その時彼は、拾った枝と草の弦で作った弓で、木製の矢を飛ばし、狼を仕留めたのさ」

「何だと?」


 イザークの目の色が変わった。じろりと、上から下までルキウスを見る。ルキウスは死んだ目で遠いところを見ていた。


「こいつがそんな事を? ふぅん?」

「確かな弓を持たせれば、もっと腕を伸ばせると思わないか?」

「………………練習用の弓と矢なら、貸し出してやらんこともない」

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