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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第一粒 妻が貴族の愛人になってしまった男
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【21】フーゴⅡ

 フーゴが親の手伝いをし始めたころ、父は商談帰りに、盗賊に襲われた。


 あと少しで命がなかっただろうという所まで追い詰められた父を助けたのは、たまたま近くを通りかかった運送業の男だった。その男と父はあっという間に親しくなり、彼らは度々酒を飲みかわし、時にはフーゴたちの家に男とその家族が招かれる事もあった。

 そこにいた子供が、ゲッツだった。

 ゲッツは口数が少ない引っ込み思案な子供だった。実のところ、フーゴはこういうおどおどした人間が嫌いだった。

 だが父が招いている子供と親しくしていないと分かれば、父にどんなことを言われるか分からない。フーゴはそんな事を考えながら、ゲッツに親しくしていた。そしてすぐに気が付いた。ゲッツは妹のエッダに惚れていた。

 そうはいっても、子供の好きなど、いくらでも溢れているし心変わりだってする。だからフーゴはたいして気にしていなかった。エッダ自身、ゲッツから何度も告白されても、たいして気にしていないようだった。幼い頃から美しいと褒められているエッダにとって、綺麗だね美しいよなんて貰って当然の誉め言葉で、特別な事ではない。そして、ゲッツから告白される以前から、エッダは沢山の町の子供たちからアタックされていた。


「あんたみたいな、()()()()した奴おことわり!」


 見た目は美しくとも、中身はフーゴと同じ、下町出身の肝っ玉な女児だ。普段のおどおどしているゲッツの様子も知っているし、子供の戯言とはいえ結婚だとか付き合うだとか、そういう事は考えられなかったのだろう。

 あっさりと振られたゲッツをフーゴは(面倒だな)と思いつつ慰めた。


「妹みたいな、うるさい奴止めとけって。お前にはもっとお似合いの奴がいるさ」


 ゲッツのような、おどおどとした、自己主張も出来ないような女とくっつけばいい。そんな風にフーゴは思っていたのだが、ゲッツは予想外に諦めなかった。

 最初こそ笑って見ていたフーゴだったが、ゲッツは何年経ってもあきらめず、しかも周りがだんだんと許容し始めた。


 更に、最初のころはあれほどゲッツを振っていたエッダの反応が、だんだんと軟化してきたのだ。まんざらでもないという顔をし始めたエッダに「おいおい」とは思ったが、確かに初めて会ったころと比べれば、ゲッツは随分と変わった。

 父と同じような運搬業をし始めたゲッツは成長期もあってか、背も伸びて筋肉もついた。性格も仕事をする中で鍛えられてか、以前のようなおどおどした感じはもうない。多少口下手な所はあったが、直接客相手に物を売るわけでもない彼に口の上手さなんて求められないだろうから、問題はない。口数が少ないのも、周りから見れば口が堅いように見えて、仕事柄、むしろ好印象らしかった。


 父親は命の恩人であり親友である男の息子であるゲッツと、自分の娘がくっつく事に好意的だった。

 母親も、エッダの美しさだけを目当てに求婚してくる男より、エッダの気の強さも理解した上で求婚し続けてくるゲッツを好意的に見ているらしい。嫁の立場として、エッダにとって舅姑となる人間の人柄も保証されているというのもより好印象という事だったのだろう。


 そんな親の後押しもあり、ゲッツが十六でエッダが十五の年に、二人は結婚した。結婚するタイミングとしてはやや若くはあったが、だからといって絶対に結婚に早すぎるというほどでもなかった。フーゴも自身が十八の時に見合いで結婚していたし。


 フーゴは、年々気が強くなっていった妹が嫁に行き家を出ていってくれて、有難かった。

 エッダとフーゴの嫁は折り合いがあまりよくなかったのだ。それが切欠で、嫁と母も関係が良くなかった。母が何かにつけてエッダの味方をしたからだ。間に挟まれて双方から愚痴を聞かされるのは面倒で仕方なかった。

 エッダが出ていけば、嫁と母の関係も、多少は改善するだろう。そう考えたし、実際、そうなった。

 嫁に行ったエッダは実家に帰る事もゼロではなかったが、基本的には義母となったゲッツの母と日々を過ごしていた。

 母も、娘が手元を離れて次にかわいがるのは孫になったらしく、嫁との関係は改善した。


 こうして家庭円満になって、フーゴは大満足だった。彼は自分の立場に満足していた。

 周りからは羨ましがられるような家庭だ。

 元々裕福に分類される実家。それを問題なく跡を継げる立場にある自分。嫁との仲は良好で、子供にも問題なく恵まれている。

 義兄弟となったゲッツとの関係も問題ない。フーゴはゲッツが所属していた運送業者の所に、親戚だからと少しだけ安く荷物を運んでもらっていた。それに加えて、他の業者では嫌がられるような遠方への仕事も、ゲッツは嫌な顔一つせず受け入れた。

 お陰で今まではなかなか手に入れられなかった商品をいくつか安定して仕入れる事が出来るようになり、フーゴの家の店は町の中でもライバルがいないような状況になっていた。


 これ以上なく、満ちた生活だった。そう信じていた。思っていた。

 ――あの日、エッダが領主に見初められるまでは。

 ん? と思われた方がいたかもしれませんが……。


※フーゴは実父から本当の事情を聞いていたが、ゲッツは父親が誤魔化したため、お互いの父が出会った経緯を正確に知らない。

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