【20】フーゴ
妻の兄視点、三話ぐらい予定。
やや胸くそ?
今は、己の人生で最高の時だ。
だがここで終わらせるつもりはない。
フーゴは真新しい店の外観を見ながら、そう思った。
◆
長年住み続けている故郷の町。どこにでもある、特別な所などないごく普通の町。
幼い頃から、フーゴはこの町で一生を終える事を理解し、そしてその事実に辟易していた。
何故ここで一生を終えると言いきれるかと言われれば、それは先祖代々、そうだったから、としか言えない。父も祖父もそのまた父もその前も、この町で暮らしていた。だからこそフーゴの居場所はこの町にしかなく、ここで生きていくしかない。
殆どの平民は、生まれた土地で一生を終える。職の関係でそうでないものもいるが少数だし、そのほかで別の町に越すとしたら……それは婚姻が主な理由だった。
やはり、婿入りよりも嫁入りの方が数としては圧倒的なので、男のフーゴに婚姻を使って他の町に行く方法などない。そもそもフーゴは跡取り息子だったので婿入りする事も厳しかったが。
平凡な、どこにでもいる平民。それがフーゴとその家族だった。
だがそんな中で、普通ではない事を言い続けている人が一人だけいた。
「ばあちゃんのばあちゃんのおばあちゃんは、貴族のご令嬢だったんだよ」
まだ妹が生まれる前、父方の祖母がそう言っているのを何度も聞いた事がある。
だが、言葉をまともに聞く家族はいなかった。祖母はフーゴが産まれたころには年老いて変になっていた。何度も何度も食べ物を食べたがったり、話をしてもすぐ忘れてしまったり、同じ話を無意味に繰り返したり。
フーゴはそんな祖母が嫌いで、あまり寄らなかった。だから祖母の言葉も、いつもの口から出まかせだと思っていた。祖母はエッダが産まれる二か月前に亡くなった。
そして二ヶ月後。祖母の虚言を真実だというような存在が、生まれた。フーゴの妹の、エッダだ。
生まれてきたエッダは、すぐにその美しさが分かった訳ではない。いくら美しくても赤子は赤子、顔はくしゃくしゃで肌は真っ赤に染まり、おぎゃあおぎゃと泣いていた。
だがエッダが一人で立ったりできる頃には、妹は他の子供と一線を画し始めていた。血がつながった家族の贔屓目がなかったとしても、エッダは同年代のどの子供より美しかった。
平民ではまず出ないだろう、夜空のような輝きを持つ青灰の瞳。青色の髪。
フーゴや父も髪は青色がかっているが、エッダのような美しい青ではない。ほぼほぼ黒と言っていいだろう。瞳なんて、どこにでもあるような茶色だ。
エッダの誕生によって、フーゴは祖母の言っていた事は嘘ではなかったと知った。
自分たちは貴族の血を引く。他の平民より特別なんだ。
とくりと、フーゴの胸が高鳴った。




