【164】大会が終わった後-ルキウス
終了後の勧誘騒ぎも諸々終わり、ルキウスたち一行は、ブラックオパール伯爵家に帰宅した。伯爵家でもルキウスの優勝は偉業として称えられた。
それはそれとして、ルキウスは大会の次の日からしばらく、寝込むことになった。
自覚はしていなかったが、あまりに長時間、腕を酷使し過ぎていたのである。両腕は疲労からくるものか、あるいは筋肉痛か、ともかく、まともに動かす事も出来ないありさまだった。それだけにとどまらず体が発熱し、動く事が困難になった。
力自慢のルビーの血族に混ざって戦う事がどれだけ大変か、ブラックオパール伯爵家の人々はそれを感じながら、ルキウスを休ませる事にした。周囲から仕事人間と引かれる事の多い本人ですら、動けないのは認めざるを得なかった。
そんなこんなで大会直後から療養に入ったルキウスの元には、次から次へと手紙が届きまくった。
誰からか?
大会を見ていた、さまざまなルビーの血族の者たちからである。
単純に祝福する内容だけの手紙もあったがそれは少数で、祝福する内容に付随して、勧誘の文言が書いてある手紙が大多数だった。
一通二通の騒ぎではない。家単位で勧誘しているものもあれば、傭兵団や騎士団や冒険団など、私的に動いている団体からの勧誘すらあった。
大会の次の日の朝一にはカールフリートから「多分ルキウス卿の腕を認めた者たちから勧誘がくるが、ルビーの血族だとよくある事なので、一度断ればしつこい所以外はもう送ってこない。一応、ルビーなりに貴殿を認めたという証みたいなものなので、あまり不愉快に感じないでもらえると助かる」という手紙が届いていなかったら、ブラックオパール伯爵家ではもっと大きな問題として取り扱う事になっていたかもしれない。
勧誘する位相手を認めている。そういう風にとらえるとすれば、あの大会一つで、ルキウスの知名度はけた違いに上がったと言えるだろう。
そんな手紙騒ぎをルキウス本人が知ったのは、熱も完全に下がり、腕も普通に使えるようになった頃であった。
「長らくお休みをいただき、ご迷惑をおかけしました」
深々頭を下げるルキウスを、ルイトポルト専属の同僚たちは慰めた。
「いやいや、顔を上げろ。謝罪など要らないから」
「そうだぞ。それだけ大変な中戦ったという証明じゃないか」
と励まされた後、なぜか一室に連れて行かれた。机の上に積み切れず、一部が床に落ちている手紙の山を見せられたのである。その時に、手紙の中身についても、説明された。
ルイトポルト付き侍従のリーダーであるコェストラーが、そっと、ルキウスの肩を叩く。
「という訳で。復帰一番のお前の仕事は、これの返信だ」
唖然としているルキウスを、侍従や従僕仲間たちが励ます。
「大丈夫だ。流石に全部お前に書かせたら、また寝込む羽目になるからな。中身の確認と、文面だけは決めてもらって、あとは手分けして皆で書こう」
「ルイトポルト様から、こちらの作業優先で良いと言って貰っている。あまり放置し過ぎると反感を買う可能性も高いからな。全員で十六人もいる、手分けすればすぐ終わる!」
「はぃ…………」
そんなこんなで、コェストラーが持ってきた貴族年鑑――ルビーの血族の家系の流れなどが、出来る限り記されているものだ――を開きながら、手紙の大整理と返信をしたためる作業が始まった。
流石、建国の歴史にさかのぼれるほどの歴史を持つ一族。貴族年鑑はとても分厚い。
「またビーフブラッドだぞ! 箱入るか?」
「チェリーピンクルビー男爵家とか子爵家も沢山あるなぁ」
「割と、ピジョンブラットルビーと、ルビーが少ないか?」
「本家に気を使っているんだろう。大会に呼んでいる事から、ピジョンブラットルビー伯爵家と当家の関係性が深い事は察せられるし、それでいてルキウスが引き抜かれていないなら、何か理由があると読める。ルビーは知らない」
「少なくともしっかりあるぞ。ほら、ピジョンブラットルビー子爵家、こっちは同男爵家。こっちはルビー男爵家と子爵家複数」
「うわぁ、シュヴァルツァーヴォルフ傭兵団だぞ! あの有名な!」
「いたのか。気が付かなかったな……」
手紙は確認して血族ごとに分けられていく。その分けられたのを、一通ずつルキウスが中身を読み、そのうえで返信を記す係に渡していく。
「祝福への礼と、大変ありがたいお話ではありますが、ルイトポルト様に仕えると決めております……っと」
「ルキウス。目を止めないで、手紙をしっかり読んでくれ」
「すみません」
聞こえてくる声についつい視線がそれているのを咎められ、慌てて手紙に視線を落とす。
どの手紙も、優勝を祝う文言と、自分の元で働かないか、という手紙ばかりだ。
単純に、優勝を祝う文言しかなかった手紙も中にはあるが、割合は少ない。
(もしかして、勧誘、暫く続いたり……しないよな?)
手紙ならまだいいが、例えば外に出かけた際にいちいちルビーの血族の者に抑えられたりしたら、大変な目にあう。想像するだけで、ぶるりと震えてしまった。
時折返信を書く役を交代しながら、手紙の仕分けを続けていき、全ての作業が終わったのは夕方だった。
「終わった!」
「暫くペンはもちたくないな!」
「すみません……」
「謝る事はないって言っているだろう。終わった終わったと両腕を伸ばして喜んでろ」
同僚に言われ、終わった事をわーいわーいと喜んでいる従僕たちと一緒に、ルキウスも喜んだ。実際、今日中に終わらないのではと思っていた仕事が終わり、嬉しい気持ちがあった。
それから、何か礼をしなければと思ったルキウスは、部屋の中にいる同僚たち問うた。
「お礼に今度、何か持ってきます。何が良いですか?」
「酒」
「紙」
「インク」
「香水」
「食べ物が良くないか?」
「日持ちするのが良いだろう、どう考えても」
「誰だよ真っ先に酒って言ったの」
わいわい盛り上がっている同僚たちを見て、ルキウスはフフッと笑みをこぼした。
十六人→侍従三人、従僕十二人、侍従見習い(ルキウス)一人
別途、専属騎士、専属侍女、専属のメイドなどがいます。
皆ルイトポルト専属です。




