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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第四粒 ルイトポルト、貴族学院へ ~1年目~

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【131】客人を招く準備Ⅱ

 仲を深めるためのトークが中心であったこの間まで開かれていた茶会と今回の来訪は違う。既にルイトポルトとはある程度の関係にあるとの事で、庭でちょっとした会話を楽しむ時間もあるものの――年ごろの令息ばかりという事もあり――屋敷内を歩き回ったりするのが主となるとか。


 主催としてブラックオパール伯爵家からはルイトポルト、同じく学院に通っているという事でインゴの子であるレヒタールとジビラも対応に当たるという。都合悪く代官であるハーゲンは不在である為、インゴが代理として挨拶する事にもなるそうだ。そのような事情もある事から、今回はインゴにつきっきりのような形で目を光らせてあれこれ監視される事はない。

 叔母であるメルツェーデスも、勿論必要に応じて参加する。


 それは良い。それは良い、のだが――。


「もう少し上だ!」

「吊り上げろ!」


 わあわあと男たちが声を合わせて、玄関ホールの壁に、()()巨大な物体が飾られる。その光景を、ルキウスはやや意識を飛ばしながら見つめていた。


「よし良いぞ!」

「完璧だな」


 重さのあるそれを引っ張り上げるために駆り出されていた騎士たちは、それはそれは満足気な顔で壁に設置された()()――巨大肉食ペリカンの頭部のはく製は、麗しい玄関ホールには似つかわしくないとすら言える存在感を放っていた。


(何故、何故わざわざこれを……)


 ルキウスはそっと額を手で抑えた。


 己が仕留めた巨大な肉食ペリカンの処遇に関しては、最終的にルイトポルトに一任された。あの獲物を仕留めたのは確かにルキウスだが、獲物は主人に――あの場ではメルツェーデスに――捧げているので、ルキウスがどうこう発言する事はなかった。

 メルツェーデスは、本来はルキウスはルイトポルトの従僕なのだから、と肉食ペリカンの処遇についてはルイトポルトに委ねたのだ。

 その結果、皮ははがれて色々なものになり、肉は――と、バラバラにされたのだが。その立派な頭部に関しては、ルイトポルトの強い要望もあってはく製化された。

 職人たちが長期間にわたって苦心し作り上げられたはく製は、伯爵家で大々的にお披露目をされ、ブラックオパール伯爵家の屋敷の一室に飾られていた。


 そのはく製が何故か今は、王都にあり、玄関ホールというこの上なく目立つ場所に飾られている。

 命じたのは間違いなくルイトポルトだろう。わざわざ結構な距離のある領地から、肉食ペリカンのはく製を取り寄せたのかと思うと、気が遠くなるのは致し方ない。


 意識をどこかに飛ばしたいと思っていたルキウスの心情など知らない騎士たちは、ガッとルキウスの肩に腕を回した。


「見ろよルキウス! これだけ目立つ位置にあれば、誰もお前の活躍を忘れんな!」

「全くだ!」


 ワハハハ! と何が面白いのか大笑いする騎士二人にルキウスは苦笑いを浮かべるしか出来なかった。


「……噂には聞いていたが、本当に大きいのだな」

「レヒタール様! ノイバー様!」


 代官の孫息子二人が来たとあって、その場で作業をしていた使用人たちや騎士たちは慌てて挨拶の代わりにと頭を下げる。それを不要だとばかりにレヒタールは手を振りながら、はく製の下に行く。

 無言ではく製を見上げるレヒタールの横で、幼いノイバーは兄の手を握りながら、水色の瞳で兄の横顔を見上げた。


「あに様、あに様。とても大きいです」


 ルキウスはノイバーがハッキリと喋っている声をこの時初めて聞いた。


「ああ。大きいな」

「これはなんですか?」

「肉食ペリカンだ」

「とてもとても、大きいです」

「これは特別大きいのだよ」

「そうなのですか? 普通はこの大きさではないのですか?」

「ああ。もっと小さい」

「ではどうしてこれは大きいのですか?」

「私もよく分からないな。きっと沢山食べて大きくなったのだろう」

「……わたしもたくさん食べたら、あに様のように大きくなりますか?」


 ほほえましい兄弟のやり取りに、周りにいた使用人や騎士たちの頬は緩んでいた。レヒタールは弟を見下ろして小さくほほ笑んだ。


「もっと野菜もしっかりと食べればな」


 ノイバーは口を尖らせた。野菜は食べたくないらしい。


 レヒタールはその後もノイバーの質問には答えを返しつつ、暫くの間はく製をジッと見つめ続けていた。

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