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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第四粒 ルイトポルト、貴族学院へ ~1年目~
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【123】ルイトポルトの再従兄弟たち

 王都での生活が始まり少しして、ルイトポルトは貴族学院に入学する日がやってきた。


 王都にあるブラックオパール伯爵邸には、ルイトポルト以外にも貴族学院に通っている学生が二人いる。この邸宅で働いているトビアスの長兄インゴルシュテッター――殆どの人々からはインゴと呼ばれている――の子供の上二人だ。


 ルイトポルトの侍従見習いでもあるルキウスは、当然の事として代官ハーゲンの妻や、その息子でハーゲンの部下として働いているインゴの妻、そして三人いる子供たちとも顔合わせをしている。インゴの妻は三オパールとは別の血族から嫁いできており、ブラックオパール特有の光が当たることで色の変わる黒髪はもっていなかったが、インゴの三人の子らはブラックオパールの髪を持っていた。見事に父親の血が濃いようだ。


 インゴの三人の子。つまりはトビアスにとっては実の甥や姪にあたり、ルイトポルトにとっては再従兄弟にあたる子供たちは、上から長男レヒタール、長女ジビラ、次男ノイバーの三人である。

 レヒタールは今年から貴族学院の最高学年である四年に。ジビラはルイトポルトの一学年上で、二年に上がる。ノイバーはまだ九歳で社交界デビューもしていないし、ルイトポルトと在学時期がかぶることはない。


 この三人とルイトポルトは、ルキウスの若い主人が王都の邸宅で暮らし始めてからというものの、顔を合わせて仲を深めていた。

 ルキウスは知らなかったが、一応、以前から手紙でのやり取りはしていたらしい。それもあって、ルイトポルトもすぐに彼らに打ち解けたようであった。


「貴族学院は国中から貴族の子弟や、平民の子らが集まる。正直、ずっと領地にいた私にとってはあまりに未知の空間だ。レヒタールやジビラたちがいるのは、心強い」


 分家の子弟という意味では、連日この邸宅に手紙を送ってくる他の分家の子弟たちも同じだろう。

 だがやはり、信頼するトビアスの近しい親族という事もあり、ルイトポルトはこの三人には心を開いているようである。


 ルキウスにとっては、彼ら三人が、ルイトポルト、エルメントルート以外で接する初めての貴族の子弟であった。お陰で、普通の貴族の子弟が平民に向ける視線というものを思い出した。

 何か、無礼な言葉を言われたわけではない。差別によって酷い目にあわされたわけでもない。

 だが心のうちからにじみ出る感情というものは、あらわにしたつもりはなくても相手に伝わっているものだ。


「君がルキウスか。よろしく」


 屋敷の廊下でルキウスが彼らと顔を合わせた際に、レヒタールは唯一友好的な態度を取ってきた。末のノイバーは引っ込み思案なのか、兄の後ろに隠れて出てこなかった。


 こちらは客観的に見ても特に問題のない態度であった。


 しかし兄の横にいたジビラは笑顔はなく、目にはありありとある感情が籠っていた。


 ――寵愛を受けているだけの平民。


 そんな、妬みの視線である。


 これはルキウスが被害妄想で思っている訳ではない。何故かというと、王都の屋敷で元から働いている使用人からは結構な割合で、こういう目で見られた。時には、聞かせるつもりはないのだろうが、陰口を叩かれた事もある。

 伯爵領の屋敷でも以前はそうして陰口をたたかれる事が多かった。

 ただでさえ、貴族たちはそう多くない仕事の席を取り合っている。そこに、生まれも育ちも平民でしかない男が、主人からの寵愛を理由としてのし上がっている――そう感じる者がいるのは普通の事。

 ルキウスからすると、むしろ直接的な嫌がらせがない事が信じられない程恵まれている状態なので、あまり気にならない。伯爵領での生活である程度慣れたとも言う。


 なので、年の離れた身分が上の若者が自分を睨んでくる事位は、ルキウスは全く気にはならなかった。


 それに、ジビラのその視線にレヒタールはすぐ気が付いて、その場で妹を咎めた。


「ジビラ。その目はなんだ。挨拶一つ出来ないのか?」


 兄に咎められたジビラは更にへそを曲げて歩いて行ってしまい、妹の後ろ姿を見送ったレヒタールはため息の後、ルキウスに軽く謝罪をした。

 この状況でジビラのあり方を責め立てる方が、大人げないとルキウスは思うのだ。


(……それにしても、何故平民で侍従見習いでしかない俺にあんな視線を向けてくるのだろうか?)


 他の使用人たちがそういう視線を向けてくるのは分かる。けれどジビラの方は、歴とした貴族令嬢だ。貴族令嬢が自分より下の立場の相手に嫉妬に近い感情を向けてくる理由がさっぱり分からず、ルキウスは首をかしげるのであった。

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― 新着の感想 ―
 視線の理由‥‥‥?ルイトポルトに寵愛を受けているから、か?  そうなると若干微笑ましいが。
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