【121】王都
ジュラエル王国王都。
中心には国の中枢であるアダマス城がそびえ、その横には王族が暮らすアダマス宮殿が存在している。正確には別の建物が二つあるのであるが、王都の民はこれら二つをまとめて、アダマス城と呼ぶことが多いらしい。
遠くに見えるアダマス城を見ながら、ついにブラックオパール伯爵家が王都に所有している屋敷に到着した。
ルキウスはゲッツと名乗っていた頃、王都に行った事が何度かあった。荷物を運ぶ際、遠い時は王都まで運んだりもしていたためだ。ただ、普段は平民たちが暮らす土地にしか行っておらず、貴族たちの邸宅が立ち並ぶ――通称貴族街と呼ばれる地区には、一度も足を踏み入れた事はない。
アダマス城から見て、東西南北、四つの方角に貴族街がある。
これは、王都の防衛のためすべての方角に向けて貴族を配置しているだとか、一か所に固めると貴族が団結してしまうだとか、様々な説が言われているがルキウスにはよくわからない。
四つあるといっても、全て同じような広さではない。広い順に並び変えると、東部、南部、北部、西部の順番で、広い。
この内、ブラックオパール伯爵家は最大の広さを持つ東部貴族街と呼ばれる地区に居を構えている。
王都の伯爵邸は、領地の屋敷に比べれば小さい。とはいってもルキウスの両親が眠る別邸よりも大きく、平民からすれば巨大な建物だ。
ブラックオパール伯爵邸が立っている場所は、ちょうど道が別れている所にある。中心に女精霊の像があり、そこを起点として三本の道が走っているのだが、その道と道の間に、ブラックオパール伯爵邸があるような形であった。そしてこの左右の道を挟んだ反対側に、ファイアオパール伯爵邸とホワイトオパール伯爵邸がある。
ちょうど三つの邸宅の位置を結ぶと、三角形になる。
(これだけ近ければ、何か用事がある時すぐに向かえるのだろうな)
重要な決断を迫られた時、オパール三家は一家の独断で決断を下せない。三つの伯爵家当主の話し合いによって、どのような判断をするかが決定する。
なので何かあった時にすぐ話し合えるよう、王都の邸宅が近くに置かれているのだろう。
既に主人であるルイトポルトやメルツェーデスの乗った馬車は到着しており、二人は屋敷の中に入ったようであった。ルキウスたちの乗る馬車も到着し、下車した後、各々荷物などを集める。貴重品としてルキウスが持ってきたのは、いつかの狩猟祭の時にルイトポルトから祝いの品として頂いた弓であった。
(狩猟祭……今年は参加せずにすむのだろうか……?)
弓に破損がない事を確認しながら、ルキウスはそんな事を思った。
初年度に功績を上げたものだから、次の年もイザークに連れられて参加した。流石に、あの巨大な肉食ペリカンと同等の獲物を期待されても困るため、できれば参加したくなかったのだが、ルイトポルトにも「期待しているぞ」と言われて、不参加は難しかった。
(あの時はなんとか、アステリズム熊を仕留められたからよかったが……)
大柄なアステリズム熊を仕留めた事で、ルキウスはなんとか前年の優勝者の面目を保てたのだ。
なおこの年の優勝は、卵が出来てから成体になるまでの成長期の環境で鱗の色が変わる事で有名なイロガワリ蛇を仕留めたイザークであった。
イロガワリ蛇自体はそこまで珍しくない。
ただ、仕留めた個体が大きかったので鱗一つ一つも大きかった事。
その鱗が稀に見られる宝石そのものの色彩をしていて――しかもその色彩が、宝石のブラックオパールと瓜二つであった事。
開いた口に矢を放ち、獲物の外側には傷一つなかった事から、イザークに優勝が決まったのだ。
ルキウスは特に嫉妬もなくイザークをほめたたえた。イザークは弟子の前で師の面目を保てたので、大変満足そうであった。
(イザーク様は残念がりそうであるが……今年はアステリズム熊ぐらいの物ですら仕留められない気がする……不参加で済むならそれに越したことはないな)
そんな事を思いながら荷物をおろし、ルキウスたちは事前にブラックオパール伯爵邸に移っていた同僚や、元々伯爵邸で働いている使用人たちから指示を受けて、伯爵邸の裏にある住み込みの使用人たち用の建物へと移動した。
元から伯爵邸で働いている人たちは別で家を持ち、通ってきている人間が殆どとの事で、実質的にはこの建物は今回領地からルイトポルトに追従してきた使用人たちと騎士たちの住処となるらしい。勿論、他所に家を借りて暮らしたければ、そうしても問題ないそうだ。家族を連れて来た者などは、暫くはここで暮らすが、家が決まり次第出ていくと語っていたのだった。




