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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第四粒 ルイトポルト、貴族学院へ ~1年目~
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【119】王都へ

 大変遅くなりましたが、四章を開始させていただきます。

 四章は予定では三章以上二章未満になる予定です。


 更新頻度に関しては、今後しばらくの間【不定期更新】の予定です。最長でも一週間以内には更新できるのを目指してまちまち更新となります。ご了承くださいませ。

 ルイトポルトが十四になる年、彼はこの国の貴族の多くと同じように、貴族学院に入学することとなった。


 冬は終わり、雪が解け、新年を祝って早々、一同は貴族学院に入学するため、王都の屋敷への引っ越しで慌ただしい。新年直後は流石に避けられているが、少し間をおいた時期に、貴族学院の入学式は定められている。


 ルキウスはルイトポルト付きの侍従見習いである。見習いになってから随分経ったが、やはり長年身に付いた平民しぐさが時折出てくる事から、まだ正式な侍従にはなっていない。

 とはいっても、よほど重要な客でもなければ、軽く来客の対応が出来る程度には、出来上がってきている。


「もう少しだな」


 と、ルキウスを励ますのは、ルイトポルト付きの同僚で侍従のロェフスであった。ルキウスが正式な侍従になれば仕事を奪われるかもしれない――つまりルキウスはライバル的存在であるが、彼はいつだってルキウスに親切に物事を教えてくれる人物だ。


「荷物、そちらは詰め終わったか?」

「ああ終わった!」

「これをそこに乗せてください」

「流石にもう乗らないぞ」


 先んじて出発する荷物の積み込みは、最終段階だ。


 これからルイトポルトは、おおよそ四年間、長期休暇以外は王都で暮らすことになる。

 そのため、ルイトポルトの荷物の多くを、王都の屋敷に持ち込むのである。


 勿論、全ての日用品や家具を積み込む必要はない。新規で購入して向こうの屋敷でそろえている物も多い。

 が、貴族の生活には様々な道具が必要であるし、特にルイトポルトが気に入って使っている物などは、そのまま持っていくこともある。

 そうした様々な荷物を積み込むと、馬車が四台分にもなった。


 随分な量だと話になった際、一人が、


「ルイトポルト様はまだ少ない方だぞ。令嬢だと、更に多い事もあるとか……」


 などと言うものだから、ルキウスは口元が引き攣った。

 やはり貴族は平民から見ると規格外である。


 これだけでなく、ルイトポルトの荷物以外にも、何台も馬車がある。そちらは、王都に追従する使用人たちの荷物を詰め込んでいる物だ。


「使用人勢の荷物、詰め込み忘れないかー?」

「まだ乗せてないのがあるぞ!」

「早く持ってこい! 締め切るぞ!」


 ルイトポルト専属の者は、家族の事情でもない限り、皆王都に追従する。ルキウスもその一人だ。既に荷物の整理は終わり、極めて貴重な品以外は馬車に積み込んであった。そんな会話に背を向けて、ルキウスは屋敷内へと入っていった。


 ルキウスはルイトポルトを探し、彼の部屋へと戻ってきた。


「失礼いたします、ルイトポルト様」


 若い主人は部屋にいた。最初に出会った頃と比べて背が伸び始め、幼さは大分なくなった。けれどまだ完全に成熟した大人にはなりきっていない年頃である。

 そんなルイトポルトの膝に、ひらひらのフリルのついたドレスを身にまとった小さい影が、しがみ付いてた。


「ああルキウス。荷物の積み込みは終わったのか?」

「はい。ルイトポルト様のお荷物の積み込みは全て完了してございます」

「そうか。ありがとう」

「いやっ!」


 ルイトポルトとルキウスの会話を聞いた、主人の膝の上の影――ルイトポルトの妹であるエルメントルートは、顔を上げた。


「や!」


 ルイトポルトは眉尻を下げ、ルキウスに視線を飛ばしてきた。


「……エルメントルートが、さっきから、ずっとこうなんだ」

「別れ難いのでしょう」


 エルメントルートは兄であるルイトポルトに、それはそれは懐いている。なので、この兄が長期間に渡って会えなくなるという事を、幼くも正しく理解して、こうして拒絶しているのであった。


「申し訳ありません、ルイトポルト様……」


 室内にいた、エルメントルートの乳母であるコジマは、酷く申し訳なさそうに声をかけてきた。ルイトポルトはコジマに対して、首を振る。


「気にしなくていい。エルメントルートと離れがたいのは、私も同じ気持ちだから」


 ルイトポルトは妹を膝の上に抱き上げた。


「エルメントルート。お父様やお母様、コジマのいう事をよく聞かなくてはいけないよ」

「……いっちゃやぁ……」

「長期休暇には必ず、エルメントルートに会いに帰ってくるから」

「うぇええぇえ!」


 泣きだしてしまったエルメントルートを、ルイトポルトは身体を揺らしてあやしていた。慣れた手つきであった。



 ◆



 これと全く同じではないが、少し似た会話は、別の日にもあった。


 ルイトポルトの社交界デビュー以降、伯爵家にはルイトポルトの側近候補として、分家の令息令嬢らが出入りするようになっていた。そのうち、ルイトポルトと同い年の者は「学院に共に入学できます」と伝えに来て、下の年齢の者は「来年にはルイトポルト様と同じところで学べます」などと報告に来ていた。

 少しでも存在をアピールして、ルイトポルトに認識されたいのだろう。


 ルイトポルトは彼ら一人ひとりに、丁寧に挨拶を返していた。


 だいぶルイトポルトと分家の令息令嬢たちの壁は薄くなったように思うが……ルキウスが思うに、完全に心を開いたりはしていないようだ。過去の経験によるものなのだろうと想像はつくが、本当のところは分からない。ルキウスに、彼の心の内など分かるはずもない。

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