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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第一粒 妻が貴族の愛人になってしまった男

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【12】ブラックオパール伯爵家Ⅲ

 執事のジョナタンは下人棟に赴いた。下人棟に用意させた一室の中はいくつかの椅子が置かれている以外は何もない部屋となっている。その部屋の中で、男は二つの木箱を放さぬようにと抱いていた。

 ジョナタンは男の体を洗った下男から説明を受けていたので、男の右目がない事は把握しており、その容姿を見ても特に驚かず、男の対面に置かれている椅子に腰かけた。

 部屋の中には他、オットマーとトビアスの二人がいる。


「さて。始めに名を聞こうか」

「……おれいを」


 かすれた声で、男が言う。


「おれいを、ありがとうございます」


 ふらりと男が立ち上がり、オットマーとトビアスはすぐ動けるような態勢になった。


「よくしてもらって……ありがとう、ございます」


 木箱を抱えたまま、深く深く男が頭を下げる。


「もう……もう、だいじょーぶで、もう、なにも……」


 これ以上の礼は要らないと、そう言いたいらしい。何とも言えない気持ちになっていたトビアスらとは違い、ジョナタンは冷静に椅子を指刺した。


「腰かけなさい」

「……あの、もう……」

「腰かけなさい」


 同じ言葉を繰り返したジョナタンに、男は顔色を悪くしながら腰かけた。


「お前がどう考えているかはどうでもよい。だがルイトポルト様はお前にいたく感謝している。今お前を屋敷の外に出したと知れれば、お叱りを受けるのは我々だ。分かるか?」


 男は困惑と焦りの混ざった顔で忙しなく、部屋の中にいる人間の顔色を窺った。男の顔に、汗がつたう。


「嘘偽りをここで述べたと分かれば、後からお前を待つのは手痛い罰だ。分かっているな?」


 男はゆっくりと頷いた。


「トビアスから報告を受けている。元の町で貴族の女性に手を出したとして罰せられたと」


 男は焦りと怒りと悲しみの混じった顔で、首を横に振った。


「ち、ちがう、あっちが! 男爵が!! エ――俺の妻を! ゲホッ、ゴホッ、ゴフッ」


 勢いよく言葉を発したからか、男は咳き込んだ。ジョナタンは男が落ち着くのを待ってから次の質問をした。


「まさかブラックオパール()()の誰かではなかろうな」


 ブラックオパール伯爵家に連なる者として、同名で男爵位にいる者はそれなりの数がいる。それゆえの質問だったが、男は首を振った。


「他のオパールの一族の男爵か?」


 また首を振る。

 とりあえず一族の誰かともめた相手ではないようだ。それで少しは安心出来る。


「貴族がお前の妻を見初めて、連れ去った。そして男爵に疎まれ、町を追いやられたと?」

「………………おれ、は……なにも――」


 男の言葉が途切れる。男は椅子に座した態勢のまま、体は横に傾いて行った。あ、と思った時には、男は床に倒れ込む。倒れ込んで尚、腕に抱えていた二つの木箱を手放す事はなかった。

 サッと動いたのはオットマーだった。倒れ込んだ男の様子を覗き込み、ジョナタンに向き直った。


「……意識を失っています。起こしますか?」

「……不要だ。意識を失ったのでは、致し方なかろう」

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ貴族の平民への理不尽なんて異世界でなくても存在してたしなあ。 彼ら的に家門の人間なら少し厄介だが、別家門で男爵家ならかな。
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