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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第三粒 ルイトポルトの社交界デビューの裏側で
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【111】ピンクサファイア男爵家の崩壊

 ガッツリしたざまぁご希望の方はご注意ください。満足いくざまぁでない可能性がございます。


 また、大変お待たせしており申し訳ありませんが仕事などの都合から現在書いてある分(数話分)の見直しも満足に出来ておらず、しばらくは低頻度の更新となります。

 ハワード・ピンクサファイア男爵は、パーティーから逃げ帰った後、事の次第を執事や侍女長などに話していた。男爵の忠実な部下である彼らは男爵がした事ではなく、受けた仕打ちに注目して憤慨した。


「なんて失礼な事を! 伯爵家だからと、我々を下に見るなど!」

「信じられませんわ。こちらは、三侯爵家が一角、サファイア侯爵家に連なる名誉ある家であるというのに!」


 その二人の言葉に男爵はホッとして息を吐いた。周りから責められ続けるだけで、誰も自分を助けるような言葉を投げかけてくれなかった事を思い出す。同意する声を聞き、何故自分はあんな目に遭ったのだ、と怒りを再熱させ始める。


「そうであろう」

「ええ。ブラックオパール伯爵は若くして継いだにしては良い領主だ、などという話もあるそうですが、そのような暴力的な親族を野放しにするなど、大した事はない人物でしたな」

「全くだ! 私を助けるでもなく、放置して!」


 男爵たちはそう愚痴りあった。

 暴力的に関しては相手方に非があるであろう。だがその前の行動や、謝罪を求めて無視した事などは、彼らの中からは全て消えていた。


 男爵は話してスッキリし、眠りについた。ブラックオパール伯爵家の屋敷に置いてきた、自分の正妻の事など思い出しもせずに。


 そうして彼らの中では終わった。


 彼らの、中では。



 ◆



 おおよそ、それから半月ほど経った頃の事である。

 突如、武装した騎士たちがピンクサファイア男爵家に突入してきたのは。


 使用人たちの悲鳴が上がる。


「だ、誰です! ここをどこだと――えっ!?」


 執事は押し入ってきた騎士たちに文句をいうべく前に出て、その姿を見て驚いた。


 騎士たちの多くが、ピンクの髪に瞳。

 そして彼らが持ってきた小さめの旗には、どこの家の人間かを示す家紋が描かれていた訳だが――それは見間違える事のない、家紋であった。


「ぴ、ピンクサファイア()()()!?」


 そう。それはこの男爵家からすれば同じ一族であり、関係性からすると親とも言える、本家の家紋であった。


 その家紋を掲げているという事は、目の前にいる騎士たちは伯爵家に仕えている騎士たちなのであろう。


「な、何故本家の騎士団が、我が家に押し入っているのですか!? 来訪の一報など受け取っておりません!」

「騒ぐな執事。それよりも、男爵を早く連れて来い。それから、夫人もな」

「お、押し入ってきた事を謝罪してくださいませ! いくら本家といえども、このような……」


 ガンッ! と騎士の誰かが脅すように床を蹴った。その鈍い音に、執事は顔色を無くし、悲鳴を上げた。



 ◆



 惰眠を貪っていた男爵は、使用人たちによって叩き起こされた。普段通り、怒鳴り散らしたが、周りはそれで謝罪するどころか真っ青な顔色のまま、男爵の準備を整えて部屋の外へと追い立てる。


「へ?」


 と、屋敷の入口に連れてこられた男爵は重々しい空気を醸し出す騎士たちに目を丸くした。


 男爵も、騎士の一人が持っている旗の家紋から、目の前にいるのが本家であるピンクサファイア伯爵家の騎士であるという事はすぐに理解した。

 が、意味が分からなかった。


「な、何を……?」


 騎士の中から、一人の騎士が前に出る。男爵も知っている、本家が抱えている騎士団の団長を務めている人物であった。

 昔からの知り合いでもあるその人物は、極めて冷たい目で男爵を見ながら、傍に控えていた従騎士に渡された羊皮紙を、バッと広げる。


「ピンクサファイア伯爵家当主マルティーン・ピンクサファイアより、ピンクサファイア男爵家当主ハワード・ピンクサファイアに、()()()()により決定した沙汰を下す。本日ただいまを持って貴殿より男爵位及び領主としての全権限を没収する。新男爵については、伯爵家当主マルティーンが後に相応しい人物を選定する事とし、暫定的に伯爵家令息オーラフが代理男爵に着任する」

「なッ!?」


 男爵や執事たちは目を剥いた。


 一族会議をしたという事は、ピンクサファイア家に連なり当主という肩書を持つ者たちが集い、判定を下したという事である。

 なおこれはあくまでも他の当主たちからの意見を集める会議であり、会議の内容がどうであろうと最終決定は総本家当主であるピンクサファイア伯爵が下すのだが、重要な決定の際には必ず行われている。分家たちの意見を取りまとめるのも、本家の仕事だからだ。


 そんな重要会議だが、男爵家当主であるハワードは呼ばれた覚えがない。


「ま、待ちたまえ! 私は一族会議に呼ばれていない! 何故急に平民に落とされなくてはならないのだ!? 不当な判断だ!」


 騎士団長は男爵――否、()()()()()()()をチラ見したが、そのまま羊皮紙の内容の読み上げをつづけた。


「また、ピンクサファイア男爵家の財産の五割をホワイトオパール伯爵家への慰謝料とする」


 突如入ってきた名は、つい半月ほど前に彼を辱めた家の名であった。ハワードは顔を赤くしながら、騎士団長に向かって叫ぶ。


「ホワイトオパール……! まさかあの無礼者たちに何かを吹き込まれたのか!?」


 半月前の己への無礼を思い出して怒りを見せるハワードに騎士団長が向ける視線は、冷たいままであった。


「ハワード・ピンクサファイア個人の私財に関しては五割については持ち出しを許すが、三日以内に屋敷から持ち出したもののみとする。三日以内にこの屋敷からも立ち退くように。三日後、屋敷に残っている私財は今後の男爵領運営費としてすべて使用する」


 こうして突然、ハワード・ピンクサファイアの天下は終わりを告げたのである。

 補足(記憶する必要は皆無ですが、設定集的なものが好きな方向け)


サファイア侯爵家



本家 : ピンクサファイア伯爵家

(侯爵家の分家の一つ)

(今回登場した騎士団はこの家の)



ピンクサファイア男爵家

(ハワードが当主だった家)

(伯爵家の分家の一つ。元は子爵家だったが降爵して現在男爵家)



分家 : ピンクサファイア男爵家

(ハワードの家から別れた分家。ハワードの家の爵位が落ちた事で爵位的には同格となっているが、本家分家の関係は変わらず)

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