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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第一粒 妻が貴族の愛人になってしまった男

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【11】ブラックオパール伯爵家Ⅱ

 トビアスが戻ってきた時、毛むくじゃら男の見た目は最初と比べるとかなり見違えていた。髪は短く切り落とされ、髭も口がちゃんと見える程度まで短くされている。他体毛の方は……まあある程度という具合だ。ただ、もう毛むくじゃらというほどの状態ではない。今の容貌で特徴を挙げるとするならば、やはり隻眼である事だろう。


 下男は桶にたっぷりと水を汲み、何度も何度も隻眼の男へかける。男は左目を閉じ、何も言わず水をかけられていた。

 

「何だそれは」


 オットマーは戻ってきたトビアスにそう問いかけた。トビアスの手には、木箱が二つあった。


「いくらなんでも一緒くたのままでは可哀想だろう」


 トビアスは木箱を、男の親の骨が入っている袋の横においた。今まで動かなかった男が、がたりと腰を浮かす。


「分け入れる。手荒な事はしない」


 トビアスは男を振り返りそう言った。男は暫くして、ゆっくりと腰を落とした。一連の流れを見ていたオットマーは一歩踏み出していた足を戻した。


 暫くの間、トビアスは袋の口を手で開きながら、心の中で二人の人間の冥福を祈った。


 それからトビアスは袋の中から骨を全て出した。男を洗っていた下男は袋の中身を見て悲鳴を上げ、そそくさと男に水をかけて、逃げて行った。オットマーは「課せられた仕事はすませろ」と悪態をついたが、普通の人間の感覚であれば致し方ない事だっただろう。


 トビアスは全ての骨を出した。出している途中でも一応パッと見で仕分けていたが、全て出してから地面の上に人の形になるように並べていく。

 下男がいなくなったため、オットマーに投げつけられた布で体をふきながら、男の視線はトビアスの挙動から離れない。


(こんなものか)


 トビアスは別に専門家でもないので、どの骨がどこの部位か、なんて分からない。なので実際のところ、分かりやすく「頭だな」とか「腰だな」と分かる骨以外は、手に取った物から大体の位置に置いているだけだ。ただ、並べてみて分かったが、少なくともこの人間二人分の骨は、随分と体格が違う。何故分かるかと言えば、骨の太さとかが違うように思えるのだ。部位の違いというより、もう、何か明らかに大きさが違う。

 これは男が言っていた「父さん」「母さん」の言葉通り、男女の骨ではないか。そう思った。


 腰の骨を持ちあげてなにやら見比べているトビアスに、オットマーは引いた顔で声をかけた。


「何をしているんだ」

「以前聞いた事があるんだ。男と女は、腰の骨の形が違うと。本当なら違いが分かるかと思ったんだが……うん、(しろうと)には分からん!」


 はははと笑い、トビアスは腰の骨を地面に置いた。オットマーは、この同僚、どんな感情で骨を見ているんだ……と本気で引いていた。


 二人の人間に骨を分けたトビアスは、持ってきた木箱の中に骨をしまっていく。綺麗に入るよう、骨の大小を組み合わせて木箱にしまい込み、最後に髑髏を置き、木箱の蓋を閉める。


「よし。ほら、壺よりもこちらの方が落としても割れにくいと思わないか?」


 トビアスが振り返り、男にそういって木箱を持たせる。男は自身の膝の上に置かれた木箱を無言で見つめていた。


「さて。水気を取ったら移動しなければな」

「どこへ行くかは決まったのか」

「ああ。先ほど、下人棟の方にとジョナタン様から言付かった。服も酷い状態だったからな、古いものだが下人棟に残っているものを一着渡しても良いと……」


 そう言いながら視線を落としたトビアスは、言葉を途切れ指す。何かと思いオットマーも視線をたどった。

 男が泣いていた。

 声も出さず、木箱を抱えて、肩を震わせて。


「……行くのは乾いてからで良いだろうか」

「下人棟から服を取ってくる」


 トビアスの言葉にオットマーはそう答えて、さっさと移動していった。

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