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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第三粒 ルイトポルトの社交界デビューの裏側で
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【102】ルイトポルトの社交界デビューの裏側でⅢ

 落ち込んでいるなら少し休めと、ルキウスは同僚によって休憩室に連れていかれた。何人かの使用人か、椅子に腰かけて足を休めたりしている中で、ルキウスは壁に背中を預けて立っていた。


(領主様がいる。ここに)


 意識が逸れないようにと気を付けながらも、どうしてもその事実に脳内を占拠されていた。


 ――「だぁかぁらぁ、アタシ、男爵様のトコに行くから。もうここには帰ってこないわよ」


 随分と久しぶりに思い出した元妻の声に、ルキウスは眉間に皺を寄せた。


 もはや、あまり思い出したくない記憶である。


 ルキウスの人生に大きな影響を与えた領主。妻を愛人にした貴族。その人物が、ここにいる。


(いや、落ち着け。同名なだけかもしれない……)


 トビアスやオットマーとて、家名で呼ぶのならブラックオパール男爵である。オットマーの妻は、男爵夫人という事になる。


(ブラックオパール家のように、働いている人物の可能性も――。…………そういう人はわざわざ客人として招待されるだろうか)


 なくはないのかもしれないが、やはり、優先的に招待されているのは近隣の領地を治める領主たちと、三オパール一族に連なる家である。


(……矢張り先程の女性は、領主様(ピンクサファイア男爵)の奥方、なのか……?)


 しかし、確認するすべは殆どない。

 確認する方法としては、貴族の参加者を全て把握している人物に先程の女性の素性を確認するしかないのだ。


 そもそもルキウスは、「領主様」の顔すら知らないのだ。


 基本的な平民は、一生領主様の顔すら見ないで終えるような世の中だ。

 貴族が訪れる事などない田舎の町で暮らしていたルキウスは、自分の暮らす土地の領主を見ても見分けられない。


(あの方は…………夫が平民(エッダ)を愛人にすることを、許容されたのだろうか)


 深く会話をしたわけでもない。だが、軽く触れ合った限りだと、ごく一般的な貴族女性という感じがした。

 そんな人物(きぞく)が、夫が、愛人として平民を抱えるというのを認めるものなのか。ルキウスには分からない。


 ――そも個人として。

 ルキウスの価値観からすれば、浮気は簡単には納得できない事だ。


 だが。


(……貴族の方々の思考を想像するなど、そもそも無理な話だったな)


 ルキウスには、分からない。



 ◆



 いつまでも結論の出せない事で悩んではいられない。

 今はルイトポルトにとって大事なパーティーの途中なのだ。


 そう思い直し、ルキウスが休憩室から出て、仕事の流れに再び入ろうとし、ドアの取っ手に手をかけた時である。


 慌てた様子で一人の使用人が休憩室に駆け込んできた。


「すまない、何人か手を貸してくれ!」

「何があったの?」

「休憩室が埋まっていて、別室の準備がいる。どうやら会場内で争いがあったらしく、別室で話し合いをする事になったらしい」

「分かった」


 そう頷いたのは、休憩室で休息をとっている使用人の中で、古株だった者だ。彼は室内を見渡す。

 ぱちりと、ルキウスとも目が合った。


「――マフレッド、ルキウス、オデット、部屋の準備に行ってくれ」

「了解です」

「分かりました」

「了解ですわ」


 指名されたルキウスは、二人の同僚と共に急いで別室の準備を行った。

 今回のパーティーの開始に合わせて屋敷内は全て掃除してある。荷物置き場となっているような、客人が絶対に入らないような場所でもだ。

 的確な指示もあり、そこまで苦労することなく部屋を整える事は出来た。


 その準備がようやっと終わった瞬間、ドアが開く。


「失礼。準備は整ったかな」


 白い髪の毛のところどころか、光に反射して別の色が浮かんで見える。ルイトポルトらとよく似た髪の毛だが、違いは地の毛色が黒ではなく白という事だろう。


 ホワイトオパールの誰かだという事は、ルキウスにも分かった。


 ルキウスは同僚に腕を引かれて、壁際に慌てて移動する。そうして、壁と出来る限り同化出来るように息を殺したのだった。入れ替わりで部屋から出ていくには、出入口付近にまだ人影があった。

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― 新着の感想 ―
元妻の不幸な現状を知ったら、ルキウス(ゲッツ)は、どう考えるのですかね。 読み手としては、、然るべきざまぁは有って欲しいですが、過剰なのも引きます。 いわゆる元サヤは、嫌いではあるのですが。 メルツェ…
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