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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第三粒 ルイトポルトの社交界デビューの裏側で
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【101】ルイトポルトの社交界デビューの裏側でⅡ

 年末の繁忙期に向けて仕事が忙しく、執筆もあまり出来ていない状況のため、次から更新頻度が落ちます。

 章と章の間以外は休みなしで行きたかったのですが、無理そうです。待っていてくださっている方には本当に申し訳ありません。

 今の所、現在の間隔の約二倍遅くなるのですが、5日間〜6日間程度の間には次話を更新出来るようにするつもりです。

 ルキウスは指示通りに、一番近い部屋から椅子を持ってきた。女性は自力で立ち上がり、そこに腰かけた。一応、その時にすれ違った使用人仲間がいたので、一人の貴族女性が体調を悪くしているようだという情報は共有できた。


 椅子に腰かけた女性を放置する訳にも行かず、ルキウスはずっと傍に立っていた。


 薄いオレンジの髪の貴族女性は、はぁ、と息を吐いた。

 年齢は、ルキウスの親か、それより少し上ぐらいであろうか。少なくともルキウスが見る限りでは、その位の年齢だ。

 だがもしかしたら、見た目より実年齢は若いかもしれない。

 そう思うぐらいの、重い空気――背負う何かがあるように、見えたのだ。


 彼女はルキウスには何かを命じるわけでもなく、けれど立ち去って良いと指示もしない。そうなると、ルキウスはどこにも行けない。


 沈黙の時間を、耐え忍ぶ。


 少しすると、ルキウスが待ち望んだ、お客様対応担当の侍女が現れた。


「失礼いたします」


 侍女がそう声をかけると、ずっと無言であった貴族女性の表情も、少し和らいだように見えた。

 侍女からちらりと視線を貰ったルキウスは、すぐに小さく礼をして、その場を離れる事にした。

 貴族女性とは会話もしていないし、望み通り椅子は持ってきたし、多分大丈夫のはずだ、と思いながら。


(とはいえ、先程の方に後で問題なさそうであったかは確認させていただこう……)


 侍女の顔は記憶できているので、問題ない。


 そうして離れるルキウスの背後で、侍女は貴族女性から事情を聞き出しているようであった。その会話がかすかに聞こえてくる。どうやら元々体調がすぐれなかったため、少し外の空気を吸おうとして歩いていたら気分が悪くなった――という理由で、あの廊下にいたらしい。

 それにしては随分パーティー会場から遠くにいたな、とルキウスが思った時。彼の耳に、侍女が貴婦人の名を呼ぶ声が聞こえた。


「――それでは休憩室にご案内いたします、ピンクサファイア男爵夫人」


 ピタリと、ルキウスは足を止めた。


 ゆっくりと、振り返る。


 侍女に連れられて、先程の薄いオレンジの髪の女性が、歩いていく。その横顔を、ルキウスは無言で見つめた。


 ――ピンクサファイア男爵。


 この近隣で、その名で呼ばれる貴族は――ルキウスが知る限りでは、一家しかない。


「ルキウス!」


 ドッと心臓が跳ねる。ルキウスが視線を目の前に移せば、さっきまでは誰もいなかったはずのそこに、同僚がいた。いつからいたのか、ルキウスには分からなかった。


「なかなか戻ってこないから探しに来たんだぞ。どうしたんだ?」


 どうやら、ルキウスは暫くここに立ち尽くしていたらしい。


「……顔色が悪いぞ? 何かあったのか?」


 その言葉に、ルキウスはゆっくりと、首を横に振った。


「……いいえ。少し、貴族の方にお声をかけるのに、緊張しただけです」

「ああ。体調を崩された方がいたんだってな。そこまで気を張らなくていいんだよ。確かに本来であれば話しかけるのはいけないがな、今回の場合は、お前が見つけなければ、大変な事になってたかもしれないだろう?」

「はい。ありがとうございます」


 励ましてくれた同僚に、ルキウスは笑ったつもりだ。けれど、心の底からは笑えなかった。何故なら。


 ――ピンクサファイア男爵という名は、ゲッツの妻エッダを愛人とした、領主の名だったから。

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― 新着の感想 ―
 まあ向こうは「ゲッツ」の存在を気にも留めないだろうなあ。  子をなすためだけの半分処理めいた行為しか望まれていない平民愛妾の元夫なんて。  しかも罪を着せて何処ぞに追放してしまったのだから生死不明。…
とうとう接点がやってきましたな!
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