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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
空空周りて行先なし
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御狐神

 いくら取り乱していたって、こういう状況になったら冷静にならないといけない。だってそうしなきゃ守れない。だって、人はすぐに死んでしまう。

 茜塚と時雨と……高梨もまあ、弱いけど場数はそれなりに踏んでるみたいだから多分大丈夫。自分で撤退判断くらいはできるはずだから。

 ……どうしてここにいるのかは分からないけど。一体全体、どうやってここまで来たんだよこんな場所に。

 とにかく、今問題なのは_____


「待って下さい!俺らが無理言って」

「関係ないよ、そんなこと。

……時雨!」


 置いてけぼりの佐伯を押し退けて3人の元へと近寄ると、双子はびくりと肩を寄せ合った。

 ……怖がらせたか。けど、2人はまだ子どもだ。

 子どもは大人に守られるべきで、大人は子どもを守るべきなんだ。それでいい、そうでなきゃいけないんだ。


「あの時2人が離れに来たのもお前の手引きなの?あの子が放っておかないって分かってて阻止しなかった?」

「古賀様!落ち着いてください!そんなに取り乱しては_____っ!?」

「そんなことは聞いてないよ。」


 時雨の襟元を掴んで目を合わせる。神様に寄ったのだろうか、僕の目はもう布ごときで阻まれなくなっていた。

 本当なら見えない。だってサヤは見えてなかった。

 ならやっぱり僕はもう……手遅れなんだろうか。人間じゃないんだろうか。


「……答えて。」


 サヤには触れられなくて、平里のこと怖がらせて。

 汚れ役を引き受けてまで守ろうとしていた弟妹はこんな危険地帯に来ていて。それを手引きしたのは僕の腹心のはずの時雨で。

 一体、僕の『古賀爽耶』としての人生にどんな意味があったの?


「……何の為に……利用されてやったと……!」

「はいそこまでー。それ以上やったらその人死んじゃうよ?」


 清涼な声は怒りで茹だっていた僕の頭を少しだけ落ち着けた。くい込んだ指の先の筋肉とその下の脈の弱さに手を離した。崩れ落ちるように蹲った時雨が酸素を取り込もうと咳き込む度に、地面に小さな染みが増えていく。面布の合間から覗く肌は血の色を失くしていた。


 やりすぎた、ということは分かった。だからといって許せはしないけれど。

 時雨が先に裏切ったんだ。

 理由があるなら問い詰めた時に答えれば良かっただけだ。それなのに時雨は謝らなかったし、説明もしなかった。

 僕から目を、逸らしたんだ。


「信じてたのに……」

「……古賀様……?」


 本当は何が悪かったかなんて分かってる。僕が悪いことも分かってる。「信じてたのに」なんて言っておいて、本心を見せなかったのは僕の方だ。


 拷問に僕の権能が悪用されるときも、居ないかもしれないサヤのための物を揃えるときも、そもそも冷遇される僕に表立って味方してくれたのも時雨だけだった。だから信じたいと思ったし、信頼されたいと思った。そのために異能の使い方を教えたし、百合と京を守りたいことを唯一打ち明けていた。

 ……でも、これだ。その結果がこれなんだ。

 これから死ぬかもしれない場所に2人を連れてきて、僕のことを怖がった。


 当たり前だ。サヤと違って平気で他人を傷つけられる僕が怖くないはずがない。目的のためなら詰め寄って踏みにじれる。自業自得だ。

 平里ですら僕を怖がったんだから、付き合いの短い時雨が……僕を恐れない訳が……

 ……もう、いっか。どうだって。


「……で、あなたは誰ですか?」


 僕を制止してくれた軍服姿の女性の側には相変わらず狐がいる。最初に感じた気配からして彼女も僕と同じかそれ以上だと思うけれど……それにしては感性が人間寄りな気がする。不思議だし、何より羨ましい。


「あれ?私のこと知らな_____ああ、そっか。そうだね、そうだった。」

「……?急に何なんですか?」

「あ、ごめんね。前々から君の話はよく聞いていたから、勝手に知り合った気になっていてね。」

「はぁ……?」


 そんなことあるのかな……けど、僕が知らないだけであるのかもしれない。


「私は宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)神依(かみより)望月(もちづき)穂稀(ほまれ)。君たちのいうところの旧時代の人間だよ。」

「旧時代……っていうと、魔導具が登場する以前の、科学文明時代の……?」

「そうだよ。あ、ちなみに私は君たちとは違って死んでないからね。」

「え!?」


 旧時代なんて僕らが生きていた時代よりもさらにずっと昔の話だ。それなのに生きてるのなら、彼女の名前的にも恐らく……


「あなたが黄泉津大神……ミクラサラの?」

「そういうこと。死ねないんだよね、私。」


 ……さすが、神代七代(かみよななよ)。規格外過ぎる。

 いくら僕でも千年以上生かし続けるなんてこと、できないし。繰り返しだって百年にも満たなかったのにここまで曖昧になってしまった。

 人間のままではこれが限界だ。だけど、ミクラサラはきっとこの人の為に全て明け渡したんだろうな。


「……うらやましい……」

「やめときな。人間のままでいたいんでしょ君。」

「それはそうですけど。」

「あはは、素直だねぇ可愛いねぇ。それじゃおばあちゃんが1つ助言をあげよう。」

「助言?」

「人を凝視するときに霊力向ける癖は直した方が良いよ。そこで固まってるうちの佐伯もだけど、平里くんも君が締めてた彼も、君を怖がったのは本能のせいだ。」


 僕が無意識に霊力を……?そんな子どもの威嚇みたいな真似、ああでも、確かにどちらも少し感情的になってた。

 本当のところはどうか分からないけど、心当たりがある。それなら、気を付けてみれば変わるだろうか。

 ちゃんと『人間らしく』いられるのかな。


「……ありがとうございます。肝に銘じておきます。」


 どうしてか少し気恥ずかしくて顔を見れない。僕が俯いたままお礼を言うと、彼女は僕の乱れた髪をぎこちなく撫で付けた。

宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)

農耕神。祝詞などとの関係から稲の神、特に収穫後の稲の穀霊と考えられている。

現在では稲荷神(または御食津神(みけつかみ))として五穀豊穣の他に火防や商売繁盛などのご利益もあるとされており、保食神をはじめとした他の食物神と同一視されていることが多い。


参考:

國學院大學 古典文化学事業HP

神名データベース

https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/

笠間稲荷神社HP

http://www.kasama.or.jp/about/index.html

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