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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
空空周りて行先なし
93/107

笑う門には

「……さて。ここまで来れば大丈夫かな。」

「近くないですか?もう少し離れた方が……」

「目視できる位置にいないと対処できないだろう?」

「なるほど。浅慮な発言でした。すみません。」

「構わないよ。実際、危険地帯であることに変わりはないのだからね。」


 霊域の縁から数十メートル離れた地点。そこで僕らは瓦礫の陰から霊域の様子を窺っていた。

 少し離れた場所で狐たちと一緒にいる軍服姿の女性の髪が、赤い日を受けて鈍く輝いている。彼女は手頃な瓦礫を腰掛けにしながら灰色の髪の青年と話し込んでいた。

 あの仰々しい話し方、やっぱりあの後輩本人な気がするんだけど……やっぱり思い出せないなぁ。


「……神原。」

「ん?なぁにー平里。」

「『なに』じゃないだろ。お前なんで俺に貼り付いてんだ?蝉じゃないんだからそっちに座れよ。」

「えー、やだよ。ここがいいー」

「肩凝るんだよ」

「なら仕方ないかー」


 やっぱり駄目か。ちぇ。

 大人しく引き下がって平里の背中から離れて隣に座る。無理させたくはないし。この前は銃使ってたから、肩凝ってたら反動で肩抜けそうだもんね。僕は拳銃以外持ったこともないから他の銃のことは分かんないけど。


 終わったら教えてもらおう。

 ……そうだ、終わったら。だけど、終わった時に僕は……ここにまだ居られるんだろうか。


 千切れた身体。重くなる瞼。どんどん冷たくなって動かなる君。

 遠くなる耳。ずっとずっと寒くて苦しかった。傷口だけが焼かれているみたいに熱くて痛かった。泣きたかったのに涙すらもう枯れていた。

 ……怖かった。恐ろしかった。

 ずっと、苦しかった、のに。僕はまた挑まなきゃいけないのか。……ヤダなぁ……。


 死んだ時のことを思い出して身震いしていると、ふとこちらに近付いてくる足音があることに気付いた。それも複数。


「……平里。」

「分かってる。あれは大丈夫だ。」

「ええ?」


 視線を投げてみたものの、話し込んでいる2人も警戒する素振りもない。

 ホントかなぁ。顔見知りだからそう思うだけで、僕にだけ敵意向けて来たりしない?ホントのホントに大丈夫?

 わざとらしく平里の袖を握ってみたけど、無警戒すぎてそれにすら気付いてもらえない。不安だ。サヤがいてくれたら一緒に大騒ぎして宥めてもらえるのに。……僕1人じゃ、その程度のことすらできない。


 昔っから、感情表現が苦手だった。家格のこともあって我儘なんて全然、幼少の頃から許されたこともなかったし。それで良いんだと思ってた。欲なんて抱いたこともなかったから。

 だけど、サヤと平里が「天才だ」って遠巻きにされてた僕に真正面からぶつかってきてくれたから。だから僕は自分の臆病さに気付けた。

 だから、だから今僕が不安だってこと、ちゃんと伝えないと。じゃなきゃ、戦う時も躊躇しかねない。

 練習だよ。慣れなきゃ、何事も。

 サヤみたいに、えっと……


「ね、ねぇ!」

「ん?どうした?」

「あのね、えっと、その……ぎゅってして!」

「え?」

「……あ。」


 違う。違う、違う!子どもじゃないのに!

 間違えた。サヤなら言うだろうけど、僕の言いたかったことはそうじゃないのに。不安だからって先走りすぎた。

 あー……やっちゃったぁー……「情けない」って思われたろうなぁ……。いくらなんでも、幼稚過ぎだって。


「違、違うんだよ。言い違えただけだよ。本当に。ほんとに言いたかったのは違くって、その」


 焦って誤魔化そうとすればするほど墓穴を掘っていく。良くない。良くないって分かっているんだけど、どうしても口が止まらない。

 まるで子どもだ、と思った。こんな振る舞いしたところでサヤがいなきゃ意味ないのに。


「分かった分かった。落ち着けって。な?」

「あ、うん……本当に?」

「何を疑ってんだよ。アレだろ?言語化が上手くできなかっただけだろ?」

「!そう!そうだよ!うん!今は子どもの身体とはいえ僕は大人だからね!うん!」

「……そうだな……っ」

「……なんで小刻みに震えてるのさ?」

「なんでも……っふ、はは……」

「笑ってんなよなー!?」


 どこがツボに入ったのか、平里は笑いを堪えて震えている。分かってくれたんじゃないの?何をそんなに面白がってんのさ!?

 ムカついて気の抜けた顔を見てやろうと、じっと平里の顔を覗き込んだ。上がりきった口角に潰された目尻が濡れて光っている。空色の瞳が涙でキラキラ光っている。

 ……相変わらずきれーな顔してるなぁ。ズルいってこれ。僕がやったら変顔になんのに。


「僕は真面目にやってんのにさー……?」

「悪い悪い。……あははっ」


 まだ笑うじゃん……くっそう、平里の笑ってる顔大好きだから許しそうになる。普段つり目がちなのに笑ってる時は下がってるとこ好き。平里、僕らと初めて会った頃はずーっと厳しい表情してたから、こんなに心許してくれてるんだなって実感してニヤけそうになる。

 ……それはそれとして、ちゃんと伝えなきゃいけないことは伝えなきゃ。言葉にしなきゃ伝わらないんだから。


「そ、れよりもさ_____」

「……神原先輩!伏せて下さい!」

「わわっ、え?」


 声に反応して伏せた途端、ひゅんっ、と風鳴りがして頭上を何かが通過して行った。そういえば、聞こえていた足音のひとつはいつの間にか止まっている。

 ってことは……


「……羽世、これはどういう状況だ?」


 平里たちと同じ軍服姿の青年が、怒気を含んだ声で僕に刃を突き付けていた。

 ……大丈夫って言ったのに!やっぱりダメだったじゃん!楽観主義め!平里だから許すけど!


 伏せたまま青年の足を睨みつけることしかできなくなった僕は、せめてもの抵抗だと頬を膨らました。

間に合わなかったので次話更新は8/30になります。よろしくお願いします。

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