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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
空空周りて行先なし
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塞の神

 これは賭けだ。それも勝算の低い賭け。

 これが最善だとは思ってないけど、他に方法を思いつけるほどの頭はないし。少しでも可能性があるのなら、それに全部賭けるしかないんだ。


 神様、神様、僕の神様。どうか……どうかお願いします。この魂()を______


「……大盾、展開します!平里先輩!」

「任せろ!」

「へ?」


 どこか聞き覚えのある声がふたつ、背後から迫ってきて僕の胴体を引き寄せた。目の前に割り込んできた誰かの三つ編みが頬に当たって額を撫でていった。


 ……あ、違う。僕が座り込んだのか。っていうか、誰なんだろうか。

 背後の誰かが僕の腹に回している左腕は強ばっていて、緊張したような浅い息が頭を掠めていく。その様子とは裏腹に僕は、伝わってくる温度が懐かしくて緊張が解けた。

 ……こっちが平里か。我ながらキモい判別の仕方したな……。いくら前世でどれだけ甘えても許されてたからって、今も許されるとは限らないよね。絶対言わないでおこう。


 ……目の前のこっちは?誰なんだろう?

 ぱっと顔を動かしてミクラサラの様子を窺うと、彼女はとても苦々しそうな表情を浮かべて後ずさっていた。


「なんで……どうしてアンタがここにいるの……!ちゃんとさっき()()()()はずなのに!!」


 『死なせた』?

 どういうこと?死を与えるも覆すも伊邪那美命の自由のはず。それが彼の神の黄泉津大神としての側面なのだから。

 ……まさか別に同じような神格が存在するとか?だとすれば、それは八百万ではなくて_____


「……別の、神話の……?」


 そんなことが、有り得るのだろうか。そもそも()()の記録にないような関係の薄い神様が、この国の人間を依代とするとは考えにくい。だけど、この状況は他に説明のしようがない。一体どんな神様が____


「……道反之大神(ちがえしのおおかみ)……!また私の邪魔をするのね!?一体どんな手を使って戻って来たの!?」

「ちがえしの……なるほど、それがおれの『カミサマ』の名前なんですね。」


 道反之大神。

 伊邪那岐命(生者)を追いかけてきた伊邪那美命(死者)を阻んだ巨岩の神。つまり、伊邪那美命にとって因縁の相手であり、同時に天敵とも呼べる神様だ。

 だけど、だからといって死んだ者を黄泉帰らせるような芸当はできない。だからやっぱり、別の神様が絡んでるはず。


 ……一緒に来た平里なら何か知っているかもしれない。ちらりと平里の顔を見上げると何やらタイミングを図っているようだったから、そのまま大人しくしていることにした。……邪魔したくはないし。

 そっと視線を前方に戻して、『道反之大神』の依っている人物の背中を見つめた。濃い灰色の髪は1本の三つ編みに纏められていて、攻撃を受け止める度にぱたぱたと肩甲骨の上で跳ねている。構えている大盾は折り畳み式らしく継ぎ目があるというのに、彼岸の主の攻撃を受けても全く壊れる気配がない。それどころか、本人の技量も相まって武具としても使えそうな程に見える。現代の武器類だけ進歩していなかった技術力を見るに、きっと平里がこの時代に作り上げたものだろう。良いなぁ。僕も作って欲しいなぁ。

 半歩ズラして受け流すだけで、霰のように叩きつけられる雷も瘴気も後方には少しも届かない。すごいな……すごい、けど。

 この技、確か昔しごいた後輩に教えてたような……ダメだなぁ。サヤと違ってあんまり興味なかったから名前忘れた。どうせもう会わないと思ってたから……こういう所が良くないんだよね、僕。後で気づいていないフリして聞かなきゃ。


「この……っ!なんで、なんで邪魔するの!!!私ただ、ただ_____また穂稀に会いたいだけなのに!!!!!」


 彼岸の……いや、これはミクラサラの叫びか。それほどまでに愛しているなら、どうして人のままでいられなかったのだろうか。


 ……まぁ、僕も人のこと言えませんけどね?なまじ神格が高いから、理外のこともできてしまう。そんな状態で愛している相手が危機に瀕していればやってしまうに決まっている。

 …………たとえ、望まれていなくても。相手にとって、呪いになったとしても。愛を返してもらえなくなったとしても。

 権能を使ってしまうんだ、僕らみたいなのは。生きていて欲しい、って。たったそれだけの願いだったはずなのに。


「_____そっかぁ。だから咲良は彼らを生まれ変わらせて、そこに着いてきたんだね。」


 恐ろしく静かな、けれどよく通る声が怒気を含んで周囲に木霊した。

 また誰か来たの?だけど、この気配は人間というより_____


「……穂稀!?穂稀、どこに……」


 攻撃の手を止めて迷子(まよいご)のように頼りなく周囲を見回すミクラサラの姿を、突如発生した霧が包み込んで覆い隠した。天候なんて霊域には存在しないはずなのに小雨が降り始め、たちまちミクラサラの気配すらも遮断されてしまった。

 これは……絶対に……


「お待たせ、2人とも。……ああ、ちょっと遅かったかな?ごめんね。」


 陽炎のようにふっと現れた女性は、扇で口元を隠したままゆっくりと目を細めた。

道反之大神(ちがえしのおおかみ)

黄泉国から逃げてきた伊邪那岐命が黄泉比良坂に置いて道を塞いだ千引きの岩に付けられた神名。他にも黄泉戸大神(よもつとのおおかみ)の名でも知られる。

「道反」は追ってきた伊邪那美命を追い返したことが由来とされる。


参考:

國學院大學 古典文化学事業HP

神名データベース

https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/

古事記ビューアー

https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/%e5%a4%a9%e5%9c%b0%e5%88%9d%e7%99%ba/

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