捜索開始!
サンドワームがいなくなったあと、雪村は力無くその場に座り込んでいた。その表情には危機が去った安堵など微塵もなく、ただ信じられないものを見た驚愕のみに満ちていた。
「ゆ、雪村さま…?」
背後にいた三つ編みの少女の呼びかけが聞こえないほどに、雪村の思考は先程の同級生___古賀爽耶に囚われていた。
(彼女がどうやって魔導具もなしにサンドワームを倒したのかは分からない。でも、あれはきっと___)
黒い閃光が走った途端、瞬く間に黒く染まった長髪も。鬼灯よりも赤く光る瞳も。
かつて雪村が幼き日に××から伝え聞いた、『英雄』の姿にとても似ていた。
***
「やっぱりこうなるよねー!!!」
視界一面の砂漠の中で、私は走り回っていた。
背後にはわらわらと砂埃を巻き上げ追いかけてくる砂蚯蚓の大群。オマケにそれに刺激されたのか数体の砂漠に適応した妖狐と思わしき怪異まで加わっている。相手するとなると面倒なことこの上ない。
…とはいえ。この程度なら予想済み。当然対策だって考えてる。
「…とりゃっ」
予備動作なしで急旋回して大群に突っ込む。思惑通りに、突然の方向転換に対応しきれなかった何体かの砂蚯蚓は転んだり仲間と絡まったりして身動きが取れなくなった。
「よし!……っふ!」
再び私は方向を変えて走り出す。また別の砂蚯蚓が転がる。妖狐も巻き込まれないと逃げてゆく。
それらを数回繰り返した頃には、もう立ち上がる気力のある怪異はいなくなっていた。やったね。さすが私。
「ふぃー…じゃね!」
私は額の汗を拭って団子のようになった砂蚯蚓の山を眺めると、穴の方へと全力疾走した。
***
「多分何かあるとしたらこの辺だと思うんだけど…」
うーん、違うのかなぁ。わざわざあの穴を隠してたってことはあそこを出入口にしてた、ってことだと思ったんだけど。違ったかな?
穴のすぐ側でばさばさと手で砂を掻き分け続けていると、不意にコツンと指先に硬質なものが当たった。
慎重に砂をどけてゆくと、それは地下避難所の入口にあるような扉だった。
「…当たりみたいだね。」
そう呟いて扉を持ち上げようとした直後。突然悪寒が走り私は咄嗟にその場から飛び退いた。
ガァンッッ!と凄まじい音がして先程までいた場所に砂ぼこりが舞い上がる。朧気な視界の中で襲撃者の影を見留めると、私は無意識に乾いた笑みを漏らしていた。
「ははっ…冗談でしょ?」
違うよね?だって、アイツはそうそういないでしょ?
そう思いたかったが砂ぼこりが晴れてその硬質に輝く赤い甲羅を目にした瞬間、全ての希望は潰えた。
甲等級相当、吸血蠍。
残虐を好む大蠍が、獲物を品定めするような目で私を見下ろしていた。