進むべき先
久山邸の離れの一室。そこで書き物をしていた茜塚は虫の知らせのような胸騒ぎがして、部屋を飛び出し空を見上げた。空模様はどんよりと重く、まるで良くないことの兆しのようである。
「……先生?どうかしましたか?」
庭先に出ていた古賀家の双子のうちの1人_____京が不安そうに茜塚に駆け寄ってきた。性格はともかく、彼らの顔立ちが先輩である久山に似ているため可愛らしいと、茜塚は思っている。
だがそうは言っても茜塚にとって彼らは彼らであり、久山は久山なのだ。茜塚から見た双子は、ようやく権能をコントロール出来るようになったばかりの可愛い教え子なのだ。
だから決して、ただの子どもである彼らに伝えることすらも危険だと判断したことは言わない。巻き込まないのだ。
「……先生……?何かあったんですか?」
「あっ、えぇっとぉ……」
京に続いてやってきた百合がおずおずと茜塚の袖を掴むと、茜塚はハッとして笑顔を作った。
「……大丈夫!ただちょっと疲れちゃっただけだよ。だから_____」
『なんでもないよ』。
そう誤魔化そうとした直後。
茜塚の体内で権能が_____神様が、激しく荒ぶった。
伊佐が三倉沙羅によって意識を奪われた、丁度その時の出来事であった。
***
_____上手くいく、そのはずだった。
佐伯はデスク上の書類の山を掻き分けて中央に身幅ほどのスペースを作ると、そのままそこに突っ伏した。
(……どうして、こうなったか。)
最初はただ、弟分を守りたかっただけだ。魔導師としての才も、優れた容貌も、何もしなければ大人たちの食い物にされる。どこの勢力の庇護下にも置かれていない集落では当たり前の光景だ。
それではダメだ、ダメだったのだ。
自分よりも年下の羽世が嫌がっていたのだから。……手を出そうとしてきた相手を、勢い余って殺してしまったくらいには。
怯えた顔で呆けている羽世を放っておけなくて、死体は崖下に放り込んだ。その時、集落に両親のいない自分たちの居場所はないのだと悟った。だから連れ出した。……逃げ出した。
その先で狐を連れた女と出会って_____そこからはトントン拍子に物事が進んでしまった。
果たしてこの選択は自分の意思だったのだろか。守りたかったはずの羽世とすら衝突ばかりで、佐伯には何が正義かすらもう分からなかった。
ただ_____
(……今がどうであれ、こんな風に守られるばかりなのは違うはずだ……異能がないからと守られるだけなのは、絶対に違う!!!俺は……守りたかったはずだ。誰かを傷付けるために行動を起こした訳じゃなかったはずだ……。)
いくら奪われ踏み躙られ続けたからといって、怒りに呑まれるべきではなかった。怨みを返そうとするべきではなかった。この手は最初から、切り開くためにあったのに。
佐伯はやっと自分の想いに気付くと、勢いよく立ち上がった。積み上げられた紙束は崩れて艝のように空を滑る。木製のペンは軽やかな音を立てて転げ落ち、踵にぶつかって止まった。
だが、今はそんなことを気にしている余裕はない。地上ではきっと、もう彼らが戦っているのだから。
地下迷宮のような解放軍の拠点。その最奥で守られていた佐伯は長い剣を仭せるとついに外へと飛び出した。
赤い自然光に伸びる影が、微かに揺らめいていた。
多分来週も更新できると思います
間に合わなかったらごめんなさい




