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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
空空周りて行先なし
88/107

失せ物

「危ない、って……久山がか!?あの久山が!?」

「はい。その久山先輩が、です。」


 思いもよらない伊佐の言葉に羽世が目を丸くして尋ねると、伊佐は大きく頷いてタッチパネル式の携帯端末を袖の内側から取り出した。手のひらサイズのその端末は、恐ろしいほど年季が入っていて動いているのが不思議なくらいだ。


「……その端末懐かしいな……まさか現役なのか?」

「現役も現役です。技術が進歩し過ぎて、こういった以前の端末は探知されないんですよ。何より使い慣れてますしね。」


 少し得意げな伊佐の態度が大型犬のように見えて、羽世は一瞬状況も忘れて和んだ。が、すぐに伊佐の言った「久山先輩が危ない」という言葉を思い出して言いようのない不安を覚えた。

 いくら戦い方が神原の権能頼みの無鉄砲なものだったとはいえそろそろ無茶はできないと学んだようだし、何よりも久山の権能の破壊能力はトップクラスだった。よっぽど相性が悪い相手なら危機に陥る可能性は十分有り得るが、今は瓦礫の山とはいえ元は街中である。雷の効果の薄い怪異の自然発生する可能性は皆無に等しい。


(なら……一体どうしてだ?)


 久山に対抗しうる異能者すらほんの数人、しかも全員交流があった。いくら才能があったとて、それほどの異能者が現代のこの状況下で育つことはまず不可能だ。


 たった一つ、可能性があるとすれば_____


「……まさか。彼岸級がまた出たのか!?」

「そのまさかです。平里先輩、こちらを。」


 伊佐が携帯端末を差し出すと、羽世はひったくるように受け取って表示されている画面を食い入るように見つめた。たった数行のテキストとグラフをたっぷり数十秒、それこそ穴が空きそうなほど眺めると、羽世は震える喉を押さえて携帯端末を伊佐に返した。


「……このデータは……事実なんだな?」

「はい。今回の相手は彼岸級_____千年前に神原先輩と久山先輩を殺した、かの霊域の主です。」


 伊佐が肯定すると羽世は顔を覆って上を向いた。手に阻まれ表情は窺えないが、ゆっくりと上下する胸板が彼の胸中を示していた。


「……勝算は、あるのか?」


 落ち着いたのか、手を下ろしながら羽世がそう尋ねると、伊佐は力強く頷いた。


「はい。任せてください。おれが____自分の権能を使えば彼女を……主を妨害できます。それが自分に依った神様の役割でしたから……」


 伊佐は少し視線を落としたが、すぐに先程までと同じように顔を上げてまっすぐに羽世を見た。その表情に覚えた面影に、羽世は伊佐の正体を悟った。


「お前……見ない間に強くなったんだな。」


 ふっと解けたように優しく掛けられた言葉に、伊佐は嬉しそうに笑った。


***


「うーん……」

「みどちゃんどしたのー?」


 時は少し遡り。

 学生用にと割り当てられた区画の隅で、吉川翠は妙な胸騒ぎに苛まれていた。普段であれば気のせいだろうと放っておくそれであったが、今回は1年生が全員いなくなってしまったうえに弟_____吉川文目が自分と一緒でないということもあり、どうにも無視できなかった。


「みどちゃーん?」

(外部は上官たちが探して下さっているし……アヤは強いもの。だから大丈夫、大丈夫に決まっている……)


 自己催眠でもかけるかのように吉川翠が同じことを心の中で繰り返していると、いつまでたっても返事を得られないことに痺れを切らした西宮がその肩を掴んだ。


「吉川さん、聞いてる?さっきから上の空みたいだけど。」

「あっ弧太郎くん……えっと、きっと大丈夫……大丈夫なはずよ……?」


 いまいち要領を得ない返事に西宮は呆れたようにため息を吐くと、上着の内ポケットから飴玉を取り出し吉川翠の手に無理やり握らせた。


「あげる。舐め終わる頃にはきっと落ち着いてるでしょ?」

「あ……ごめんね、弧太郎くん。上級生なんだからちゃんと落ち、落ち着かなきゃいけないのに。」

「……別に、こういう時くらいは良いんじゃなーい?まだ学生なんだからさ。」


 西宮がそう言って吉川翠に手を伸ばした時______

真っ黒な雷が、空を左右に引き裂いた。

行けそうなので7/12は更新あります。

以降目処が経てば週次更新に戻そうと思います。

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