踏ん張りどころ
焼け!焼き落とせ!燃える余地すら残すな!
この先には行かせない。この場所からは逃がさない。
いくら魔力操作を意識させたとはいえ、もう弾切れの銃しか持っていないであろう吉川文目のことを思うと不安になる。
けど、もうどうしようもない。託してしまったんだから。
一緒に行けば良かったのかなぁ。でも、こんな群れ引き連れて戻ったら大混乱だしなぁ。
しかも、もう連絡できないだろうし。
端末が壊れてしまったのか、いつの間にか視界の邪魔をしていた時刻だのアイコンだのは綺麗さっぱり消え去ってしまった。ま、しょーがないか。
足元に積み上がっていたはずの瓦礫は既に粉々に砕けて遮蔽物とならず、影は真っ直ぐに落ちる他ない。
あの腕も怪異も、もう単純な動きしかできなくなっていた。
挟撃しようとしても雷に阻まれ、不意打ちできるほどの地理的優位に立てない。下から奇襲しようにも常に脚に稲妻が巻きついているし、上に行こうにも影がない。
だから、もう怪異たちには『正面突破』以外の方法は残されていないのだ。……多分!
薙ぎ払って、蹴りあげて、貫いて、叩き落として。
倒して、消して……殺して。
怪異を『命』と呼べるかどうかは分からないけど、少なくとも私の目には虫や動物と大差ないように思える。だから……不快なんだ。昔は大丈夫だったんだけどな。どうして今更気付いちゃったんだろう。
だからといって加減するのかと聞かれたらそれは違うけど。だって、殺すときの躊躇なんて相手に苦痛を与えこそすれ何の意味もないし。
死骸も残らない。血も出ない。絶えればそこに存在していた痕跡すら綺麗さっぱり消える存在。
だから、倒しても実感が湧かない。
あの時だって、ちゃんと私たちは殺せていたの?ちゃんと、あの主にトドメを刺せていたの?
知らないことばっかりだ。今知ったとて手遅れなことすらも、確信が持てない。
……でも。分かんなくて、分かんないけど、分かんなくても!
奪うことをやめてはいけない。この手を止めちゃいけない。
吉川文目がちゃんと帰れるまでは、こいつらに撤退する余裕を与えちゃいけない。被害を最小限に留めなきゃ。
じゃないと、平里の忠告破ってわざわざ権能使った意味ないもん。せっかく平里が忠告してくれたんだから、できることなら守りたかったのに!この怪異どもめ!
よしいける!全員ぶっ飛ばす!
私は気合いを入れ直すと、未だ終わりの見えない怪異の大群に改めて向き直った。
傾き始めた日が、影を長く伸ばしていた。
***
「……どこに行ったんだ……!?」
焦燥感を顔に滲ませ、伊佐は瓦礫の街を走り回っていた。背の丈よりもいくらか高い残骸に視界を阻まれ、思うように動けない。
その伊佐すらも、崩れ落ちたコンクリートに紛れて遠目からは気付けないだろう。
(早く見つけなければ……三倉が行動に移した時点でほぼ手遅れだというのに……!)
いくら拭っても汚れる眼鏡を乱暴にポケットに仕舞いこむと、伊佐は手近にあった何かの台座らしき物体に足を掛けた。
そして身体を軽々と引き上げて台座の上から周囲を見回すと、ふと遠くで黒い光が何度も天に向かって走っていくのが目に入った。
「……あれは……」
その光に引き寄せられるかのように伊佐が台座から飛び降りると、突然周囲が暗くなった。
「……え?」
振り返って状況を理解する暇すら与えられず。自身を見下ろす長い影に、伊佐の意識は刈り取られた。




