そんなバカなー
真名を知られてしまったから警戒していたけれど、ここ数日三倉沙羅の顔も見ていない。
安心すべきところ、喜ぶべきところなんだろうけど……私にはどうしても、これが嵐の前の静けさにしか思えなかった。
だとしても、何も手立てが思いつかないのが歯がゆい。真名を相手に握られているうえに、彼女を前にすると上手く頭が動かなくなってしまう。
一体、三倉沙羅に何があるというのだろうか。
私は腕を組んで首をぐらぐらと回すと、そのまま背後に勢いよく肘を回した。
「ギャッ!」
「怪異ばっかりで進展もないしなー……せんぱーい、ちゃんとトドメ刺したか確認してくれません?」
半分消えかけのまま飛びかかってきた蛙のような形の怪異が小さな欠片に変わったのを見届けて、私は目の前で小銃をブン回してる吉川文目に声を掛けた。
「こっちは!そんな!余裕ねぇっつってんだろが!!!!!」
「えぇー?先輩なのにー?ってか、銃ってそんな鈍器みたいに扱う物でしたっけ?」
「弾切れしたんだから仕方ないだろ!!!!話す暇あるなら手を動かせよ後輩!!!!」
小さな触手やら蛙っぽいのやら蛇みたいなのやら。
大量発生した個性豊かな怪異の群れに、私と吉川文目は囲まれてしまっていた。
とはいえ丁等級にも満たないような細々とした怪異ばっかりだから、落ち着いて対処できれば吉川文目1人でも全く問題ないんだけど……
「ちゃんと相手の動き見ないとダメですよー」
「はぁ!?こんな大群相手にどうやって___ってか、まだ連絡つかないのかよ!?」
「まーったく。応答が返って来ないどころか通信ができないんですよね。コレ、まさかとは思いますが、また西宮先輩が何かしたのではー?」
視界の端で点滅している『切断中』の記号にちらりと視線を向けて、私は大袈裟に両の手のひらを上に向けた。
「……否定できない……!!!」
敵前であるにも関わらず頭を押さえる吉川文目に内心呆れつつも、私は足元に寄ってきた怪異を霊力を脚に込めて力いっぱい蹴り上げた。
断末魔を上げる暇もなくぐちゃりと潰れたソレを纏わせたまま別の怪異の頭を踏み抜くと、カラカラと硬いものが転がる音がして綺麗さっぱり消え去った。
「ふぃー。」
やっぱり物理で殴るのが1番手っ取り早いや。相性とか気にしなくて良いし。
それに何よりも、弾切れとか関係ないし。
「先輩先輩、頭抱えてる暇あったらか……モンスターに当たってくれません?倒さなきゃどうにもならないんですし。」
「分かってんだよ!そんなことは!」
「じゃーさっさと手動かして下さいよーう。早く帰って設備の安否をですねー?確認しないと。」
迫り来る怪異をひたすら脚で飛ばしては落として、飛ばしては落としてを繰り返しながら吉川文目に呼び掛けると、吉川文目はヤケクソになったらしく「あーもー!」と叫んでポケットから何やら取り出して怪異の波目掛けて投げ込んだ。
すると落雷のような音と光が迸り、その周辺の怪異は石になって消失していた。
アレかな、手榴弾。前世で平里がたまに使ってたやつ。
「おぉー。なんでもっと早く使わなかったんですか?」
「無茶言うなよ!こんな高級品、勿体なくてそうそう使えねぇっての!」
「……高級品……でも、もったいぶって死んじゃったらそれこそ『もったいない』んじゃないですか?」
「それはそうだけど……!!!これ1個で中古の車買える値段だぞ!?頭では分かってても使える訳ねぇだろ!!!」
わぉ……たっか。
前世でも高かったのかな、ことちゃんとか平里に借りた以外で魔導具使ったことないから相場が分からないや。
でも平里が経費申請した時もあっさり通ってたし、何より構造が単純だからそんなに値が張る理由が見当たらないと思うんだけど……。
魔導回路は魔力を込め過ぎると爆発する。ああいう手榴弾ってそれを利用した魔導具だから、他の魔導具と違って魔力を込めて投げることの出来る構造さえ有していればいい。って平里言ってた。
ってことはつまり、同じ効果なら必要な構造はあまり変化しないはずだよね、単純な造りなんだから。それならもっと前世よりも安くなってても良さそうなものだけど。
「……ところで後輩。少し気になったんだが……」
「んー?なんです先輩。」
「魔導具も無しにどーやってお前はモンスター倒してんだ?」
……まさかこっちも身体強化できない?そんなバカな。
吉川文目の問いに、私は目を丸くすることしかできなかった。
***
____計測中
____計測中
________計測失敗
___システムを再起動します
____計測中
____計測中
________計測完了
霊力濃度:六二パーセント
魔力濃度:三二パーセント
異界侵食度:三〇パーセント
神格汚染度:八八パーセント
結界展開結果:エラー
警告 警告 警告
霊域顕現の可能性あり
直ちに住民の避難を開始してください。
警告 警______




