思う人は③
気にし過ぎと言われればそれまでだけど、お互い異性装を……見た目を偽装しているのなら、彼らが『きょうだい』ではないのにそう偽っている可能性だってある。
兄さんが弟妹のことを教えていないのではなく、実際はいないのにそうだと嘘を吐いている可能性についても考えなきゃいけない。
ひとつ嘘を暴いたら全て疑え、って習ったし。
初手で嘘を吐いている、偽装しているってことは他にもまだ何か隠してるかもしれないってことだし。
人間、本当に隠したいことを隠すためにいくつも嘘を吐くものだもの。分かりづらい嘘を看破してそこで追及をやめるのは悪手だと思う。
そもそもそれが嘘だとしても、暴いたものが真実だとは限らないんだから。
私は兄さんの真似をしながらもとりあえず威圧感を出そうと、自分のこめかみを指先でとんとんと叩いた。
兄さんは多分、痺れを切らすまでは口に出さずに仕草で急かすと思うから。
「……俺も?」
「当たり前でしょ?話聞いてなかった?」
「……そうですか。」
京は頷いたあとも「痺れ損じゃん」としばらくぶつくさ言っていたけれど、鬱陶しくなったらしい百合ちゃんに頭をはたかれていた。
いい音なったなー。
「痛った!!!」
「何文句言ってるのよ。納得したなら早く自己紹介しなさいよ。」
「はぁ!?そんなら百合が先に言えば良いだろ!」
「嫌よ。」
「なんで」
「だって……お姉様相手に1番手だなんて、緊張するじゃない。先に京がトチってくれた方が気が楽だもの。」
「おい。」
仲良いな。
まるで漫才かのように息の合った会話に前世の自分たちのことを思い出して寂しくなった。けど、顔には出しちゃいけない。
だってこういう状況だったら兄さんは、そんなことしない。
「……どっちでも良いけど、早くしてくれない?」
「あっ……ごめんなさい。……京、ほら早くしなさいよ。」
「えぇー……古賀京。14歳。百合とは双子で、俺が兄___」
「は?」
「……弟です。」
これ、京が兄なんだろうなぁ。
これが演技だとしたらすごいと思う。ホントに。
……まぁ双子ならどっちが兄姉かなんて時代で変わるみたいだし、どっちでもいいけど。
「……で、こっちが___」
「古賀百合です。同じく14歳です。そして京の双子の、『姉』です。」
強調してきた。
そんなに姉がいいの?そういう価値観もあるんだな、分かんないけど。
なんでか期待に満ちた目で私を見ている百合ちゃんとは対照的に、京は大変嫌気がさした様子でため息を吐いていた。
双子とは言えど似てるのは容姿だけか。
もちろんこれが警戒心を解くための演技だって可能性も残ってる。疑い続けておいて損はないはず。
「……そういえば、なんで嫌味言いに来たの?わざわざ京に女装までさせて。」
私が問い掛けると京はぎゅっと嫌そうに目を瞑り、反対に百合ちゃんはすっと即座に手を挙げた。
2人の態度をこのまま受け取っていいなら、京は百合ちゃんに無理やり来させられたんだろな。
「……発言どうぞ。」
「ありがとうございます。今更言い訳にしかなりませんが……そうしなければいけなかったのです。」
「と、いうと?」
「はい。まず私たちの母親が正室、ということは爽耶さんもご存知ですよね?」
「……それで?それがこの件にどう繋がるの?」
「古賀家では家督の長子相続が初代当主の頃より定められていて、現在爽耶さんが嫡子なのですが……父と母はそれが気に食わないようで……」
……あれ、なんだろうこの既視感。
何だか、昔の私と松也を見てるみたいだ。
兄さんの『代替品』だと言われ続けて兄さんを嫌うように仕向けられていた私。
「お前はダメだ」と言われ続け歪んだままの感情に囚われてしまっていた松也。
……ああ、結局久山の血からは名前が変わったところで逃げられないのか。馬鹿みたい。
百合ちゃんの段々と小さくなっていく声に、なんとなく事情を察した。
嫡子云々は驚いたけどまあ一旦置いといて。この話から推測するにこの子達はやりたくもない嫌がらせを両親から強要、もしくはそうせざるを得ない流れを作られたんだろうな。
私と松也の養育者は、子どもを洗脳して思い通りにしようとするような人達だった。ひと昔前によく言われていた『毒親』ってやつなんだろう。
この手の人間は子供のことを自分と同一視し過ぎている訳だけど、きっとこの双子の母親も同じなんだろう。多分だけど、自分が嫌いな人と子供たちが仲良くするのを忌み嫌ったんだろな。
だから、もう顔向けできないようにいじめを強要するんだ。
嫌がらせを自分からさせようと仕向けるんだ。
全部、憶測でしかないけど。
信じるに足る証拠はまだない。でも、2人の言動の奥に見え隠れする臆病さはきっと本当のことだ。
……信じたい。傷付けたくないのも、嫌われたくないのも。
私たちだって、本当はそうだったから。
本当は、「助けて欲しい」って気付いてもらいたかったから……。
「……2人とも。」
「は、はい!」
「……何。」
「ありがとう、話してくれて。」
椅子から立ち上がって歩み寄ると、百合ちゃんは泣きそうな顔を震える手で覆った。
「……信じて、下さるのですか?」
「うん。」
「証拠もねーのに?」
「確かにそうだけれど……私が信じられるって思ったんだから、それで良いでしょう?」
「そー。……お人好しな奴。いつか足元掬われても知らないからな。」
「ちょっと京!そんな言い方……!」
やっぱり京って松也に似てる。
ってことは、平里に会わせたらすぐ懐くのかな。それともやっぱり別の人間だから、違うのかな。
……変だなあ。あんなに喧嘩してばっかりだったのに、ものすごく松也に会いたい。
どうしたら2人と早く一緒にいられるようにできるのかな。あの頃に帰れなくっても、やり直せなくっても、そのくらいは___
「……爽耶さん?」
「うん?どうかした?」
「どうして、笑っていらっしゃるのですか?」
「笑ってた?……そっか。」
「……怖ぁ」
「ちょっと京!失礼でしょう!?」
「いいよいいよ。……うん、本当に。そのままでいて。」
なんだか懐かしくて泣きそうだ。
あの家にいなければ、私と松也にもこんな未来があったのだろうか。
つんと鼻の奥が痛くなりそうになるのを抑えて、私は微笑みを形作った。
ストックがなくなってしまったので1週休載させていただきます
次回更新→2/22




