表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
千を越えても壊れぬように
72/107

思う人は①

「……で、あなたはどこの誰さん?」


 その問いかけに対して少年は、信じられないものを見るような目で私を見た。

 ってことはそこそこ知り合いかそれ以上?

 それになんだかすごいショック受けてるみたいだし、もしかしたらよく顔合わせてたのかも?


 ……なんかちょっと可哀想になってきたや。でも、知り合いなのは兄さんであって私じゃないんだもん。仕方ないよね?


 きゅっと唇を噛んで答えない少年のほっぺたをつつくと、少年は不快そうに目尻を歪めた。

 それにしてもこの子の顔、松也によく似てんな。

 子孫とはいえここまで顔の造形が似てるのは珍しいな。高梨なんて先祖(ことちゃん)と顔全然似てないのに。遺伝って不思議だなぁ。


 そんなことを考えながらつつき続けると遂に我慢の限界になったのか、ぷるぷると小刻みに震え出した。

 お、もうちょいで怒りそう。さっさと怒ったら良いのに。

 怒りって案外感情の発散になるから、怒ってくれたらきっと状況だとか関係性だとか、色んな忘れられると思うんだ。

 そうすれば、少しは会話しやすくなると思う。多分……きっと!

 さらりとした白粉粉の感触がする頬をちょいっと摘むと、さすがに少年が吠えた。


「さっきから何すんだよ!」

「ごめんごめん。なーんにも言わなくなったからまだ痺れてるのかと思ってさー?」

「そんな訳ないだろ!」


 ぎゃんっと耳に響く大声で少年はしばらく捲し立てると、やがて空気の抜けた風船のようにしょぼくれた。


「……本当に分かんないのかよ……?」

「ごめんねー。」

「……そうかよ。」


 少年はそう言うと、チッと舌打ちをして視線を落とした。

 その様子に私は、そこはかとなく罪悪感を覚えた。でもこれ私悪くないし。

 そもそも先に喧嘩売ったのお前。私被害者。

 視線に若干殺意の芽生えた茜塚に目配せをして宥めると、私はもう一度同じ質問を繰り返した。


「あなたはどこの誰さん?私の親戚?」

「………それすら分からないのかよ………あんた、誰だ。」

「知りたいんだったら君が先に名乗るべきではー?それが筋ってものなんだよーおー?」

「うっざ!」

「早く言わないともっとうざくなるよ。ほれほれー。」

「むがっ!」


 少年の頬を掴んでむにむにと引っ張ったりつついたりしていると、少年は堪忍袋の緒切れたように私の手を払い除けた。

 弱くなったとはいえまだ痺れてるはずなのに。すげ。


「……古賀京(みやこ)!あんたの!腹違いの!弟だよ!」

「弟!?」

「そうだよ!あと、妹もいる。」

「妹まで!?」


 兄弟いたの!?

 ちょっと兄さん!それはさすがに教えてくれても良くない?

 時雨さんもなんで……と思ったけれど、さっきの萎縮した態度から見るにアレか、折り合い悪いんだな、派閥的に。


 私が使用人との……妾腹の子であることを鑑みるに、腹違いでこんな豪奢な振袖着れるってことは本家本流、正当な血筋の子って可能性が高い。もし違ったとしても、母親がそれなりに地位のある人のはず。

 そうなると、私のことが邪魔なはず……だからと言って、身分の低いはずの私にわざわざ嫌がらせをする理由なんてないように思えるけど……。


「……ところで、なんで……えっと、京さんはここに来たの?」

「『さん』ってなんだよ!?やっぱりあんた、爽耶さんじゃないだろ!!」

「サヤさんはずっとサヤさんだよう。

……ま、確かに君の知ってる『爽耶』ではないけどさ。」


 ひっそりと耳打ちすると、少年改め京は嫌そうな顔をした。

 めちゃくちゃ嫌そうじゃん。嫌がらせしに来てたのに好きだったの?兄さんのこと。


「……返せよ。」

「ん?」

「元の爽耶さんを返せよ!」

「えぇー……?」


 めんどくさいなぁ。

 茜塚はともかく、高梨に聞かれるのはちょっとなー……。

 そう思っていると、不意に高梨がぽつりと呟いた。


「カンバラ……」

「え?」

「……えっ」


 神原?

 なんで高梨が知ってるの?

 驚いて視線だけ向けると、茜塚も同じように目を見開いていた。

 もしかして、私が気絶してた時に会ってたの?

 だとしたら吸血蠍(アンタレス)のときかなぁ。あの時くらいしか高梨と兄さんが顔合わせられる機会、なさそうだし。

 私が気絶してかつ、だもんね。

 ……ってことはあの商業施設の霊域のとき、結構危なかったんじゃ?結果としては先輩たちとはぐれてて良かったのかも。


 まーそれはそれとして。

 京はどうも兄さんに懐いてたみたい。兄さん的にはどうだか分かんないけど。

 でも、懐いてたんならなんであんな嫌味を?

 構って欲しかったとか?だとしたら幼稚すぎない?

 7つ越えたら直そうよ、そういうの。

 他に理由があるとしたら指示されたとか、唆されたとか?

 ……煽ってみよっか。高梨が兄さんのこと知ってるなら、隠す必要もないし。

 茜塚にだって、いずれは教えなきゃいけないことだったし。


「返せ返せってうるっさいなー。気を引くために嫌がらせするようなお子ちゃまに構ってあげてるだけ感謝しなよ。」

「はぁ!?誰があんたなんかに……!」

「客観的事実でしょ?君が『古賀爽耶』に構って欲しくてわざわざ振袖着て、お化粧までして離れに来たくせに〜?」

「なっ……なっ……」


 苛立ちやら何やらで京は顔を真っ赤にしながら口をぱくぱくとさせた。

 性格って似るもんなんだなー。私たち(久山家)、けっこう直情的だったもんね。

 でも、怒ったからといって座敷牢に突っ込むのはやっぱりどうかと思う。叔父上め、直情的の極み。

 にやにやとからかうように笑っていると、京がだんっと強く床を叩いて私を睨みつけた。


「これは!百合が身代わりにって___」

「百合?あ、妹の方?」

「あっ」


 「しまった」、と言いたげな表情で京は口を噤んだけれど時すでに遅し。

 思いっきり「百合の身代わりにされた」って言っちゃったもんね。聞いちゃったもんね。


「へぇ〜。妹ちゃんは百合ちゃんって言うんだ。身代わりにできるってことは似てるの?」

「……」

「今更黙っても遅いよう。だからさぁ、全部ゲロっちゃおーよーぉー。」

「……うっざ!」

「今気づいたの?こういう時のサヤさんはウザいよ。全部話すまではウザいよ。

だから全部話しちゃおうねー?」


 つんつんと2本指でほっぺたをつつきまくると、今度はさすがにぺしんと叩かれた。

 遠慮がなくなってきたな。その分警戒心がなくなってきたってことだから、揺さぶればさっきみたいにボロを出してくれるかも。


「ねー、話しちゃおうよーう?」

「い、や、だ!!!」

「えぇー?私がこんなに頼んでるのに?」

「頼まれてない!っていうか、人にものを頼む態度じゃないだろ!」

「てへ」

「爽耶さんの顔で変な表情すんなー!」


 あー楽し。

 可愛げがありまくる。


 怒って私の頬を引っ張ろうとしてくる京の手を避けると、私は軽く彼のおでこを指で弾いた。


「痛っ!」

「あははー。これくらい霊力で防御できるでしょ?」


 昨日の常世教団の皆さんみたいに霊力量が少ない訳じゃないし、やろうと思えばできるはず……なんだけど、いまいち霊力がぼんやりしてるっていうか、活性化してないというか。


 何か理由があるのかも?

 例えば……怪異の記録と同じで陰陽師の育成方法も消失してしまったとか。あるいは詠唱と同じで権能だとか霊符の概念そのものが失伝されてしまったとか。

 それにしても、兄さんはよく前世と今世の差異について調べようと思ったよね。私と共有してくれてなかったら今頃やらかしてただろうし。

 や、もうすでにやらかしちゃってたか。

 バレてないっぽいのが幸いだけど……どうなんだろう。今後。


 色々考えながらも京のおでこをつつくと、京は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「……ないんだよ。」

「え?」

「普通はできないんだよ、そんなこと!」

「はい?」


 ……できない?『普通は』ってことはできる人はいるってこと?

 ううん、そんなことよりも……大多数はできないってことは、基本のきの字が抜けたようなものじゃん?

 異能力操作なんて基本中の基本、全ての土台になる部分なのに。

 しかも、『防御』なんて本来は異能力による『身体強化』の最初に覚えるべきものなのに。


 身体強化ができない?それとも、異能力操作自体が教えられていない?

 それなら、どうやって戦えるというの?

 ……思ったよりも、状況は悪いのかもしれない。


 守ろうとしてくれてたんだ。松也が記録を残していないわけがない。

 だからつまり___広く開かれていたはずのその方法になんらかの閲覧制限を誰かがつけるか、もしくは処分してしまったか。

 前者であればなんとかできるかもしれないけど、後者だったら……どうしようね。

 ホントにどうしようね?


「……京くん京くん。それ、本気で言ってる?本当の本っ当に、できないの?」

「はぁ?本気も何も……そんなことできる人間なんて、元々爽耶さんとあの黒子……時雨だっけ?と亡くなった伯母上の3人しかいないだろ?他にそんなことのできた人間がいたなんて、聞いたこともない。」

「……そ、っか。」


 伯母上……ってことはあいつの言ってた『姉上』のことかなぁ。私に似てるって言ってたのはこのこと?

 でも仮に失伝してるのなら、時雨さんには兄さんが教えたとして……伯母さんはどうやってできるようになったんだろ。

 聞こうにももう、亡くなってるみたいだし。


 色々聞き出せはしたけど、どれもこれも追加調査が困難なことばっかりだ。

 順当に考えれば当主が知ってるかもしれないけど、あれにそんな知識があるとは到底思えないし。

 ここで打ち止めかなぁ。行き詰まったぁ。


「……あー、もー!考えたくなーい!!!」

「先輩?大丈夫ですか?」


 私が頭を抱えると、茜塚が心配そうに寄ってきた。

 かわいい。元気出た。


 ……文句言ったって、駄々こねてたって、状況が好転するわけじゃない。

 兄さんだったらすぐに何か思いついたかもしれないけど、私はそこまで天才じゃないからたくさん考えるしかない。


「むむむ……」

「古賀?急に唸ってどうし___」

「しっ、黙ってください。先輩は今、真剣に考えてるんですよ。」

「……そういえばあんたらも誰?爽耶さんの何?」

「俺は古賀の先輩だ。」

「わたしは先輩の後輩です。」

「へー……」


 どうすべきか……と腕を組んだ途端に外野が騒がしくなった。

 高梨は分かるとして、茜塚はなんかその、分かりづらくない?それだと。

 思わず意識を3人の会話に寄せそうになるのを押さえて思考に戻る。

 ……現状がどうであれ、とにかく身体強化の方法を広めないと___


「……古賀様!失礼します!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ