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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
千を越えても壊れぬように
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帰りたいね

 平里が挿し木を終えたのを見届けて、別れの挨拶もせずにそのまま別れた。

 会話でもしようものならまた離れがたくなっただろうし、これで良いんだ。


 私はこの時代のことを心のどこかで「どうでもいい」と思ってしまっていたんだろな。……きっと、今もまだそう思ってる。

 だからこそ内部改革なんて方法を早々に切り捨てていた訳だし。そもそも大事に思ってたら第3勢力なんて明らかに戦乱の激化を招くような方法選ぼうともしないはずだし。


 結局、まだ生まれ変わったことを受け入れられてないだけなのかも。


 そんな風に考えながらザクザクと落ち葉を踏んで時雨さんたちと分かれた方へ歩いていると、ふと視線を感じた気がした。


「っ!……?」


 臨戦態勢を取ってみたものの、気配は綺麗さっぱり消えていた。

 ……気のせい?でも、さっきたしかに……

 勘を信じて周囲を警戒したけど、なんの違和感も拾えなかった。


「……」


 じっとりとした気味の悪さを感じながらも『何もいない』としか結論が出せない以上、私はその場を離れることしかできなかった。


***


「時雨さーん!」

「古賀様!」


 遠くに3人の姿を見留めて声を張ると、安堵したように時雨さんが駆け寄ってきた。

ここまで感情を顕にするのは珍しいな。……ってことは、かなり心配をかけちゃったんだろな。

 まあそりゃあ、仕えてる人が自分が全く察知できない相手に向かっていったとなればめちゃくちゃ不安になるよね。今回は運良く交戦せずに済んだだけで、下手したら相打ちしてたかもしれないくらいだし。


 緊張が解けたのか小刻みに震えている時雨さんの肩をぽんぽんと軽く叩くと、仲良く状況を飲み込めていない顔で倒木に腰掛けている茜塚と高梨の方へと歩み寄った。


「古賀!……どこに行ってたんだ?」

「……先輩、何してたんですか?」


 こちらを案ずるような目の高梨と疑うような目の茜塚に見つめられて、あまりの温度差にちょっと笑いそうになってしまった。

 高梨はあくまで私のこと『後輩』として見てるんだろな。で、茜塚は……私と兄さんの諸々の話___やらかしとか悪戯とかの数々___を知ってるからこんな目をしてるんだろな。疑いの目を。


 ……今回は冤罪なんだけどな。何もしてないんだけどな。

 とはいえ時雨さんと高梨のいる前で正直に言う訳にはいかないから、ここは穏便な感じで言い訳をするしかない。

 穏便に……できるかなぁ?


「えぇーっと……その。ちょっと気になるものがあったから確認しに行っただけで……」

「それにしては随分と時間が掛かったみたいですね?先輩。」

「うっ……ちょっと遠かったから……」

「そうですか。遠くに行くのに何も言わずに離れるほどお急ぎだったんですね。」

「そ、それは……」

「そもそも……長距離・長時間離れる場合には同行者にその旨告げてから行くのが定石なのでは?」

「……はい……仰る通りです……」


 反論の余地がない。

 全くもって正論すぎる。


 説教が始まると思っていなかったらしい高梨は、オロオロと言い負かされている私と茜塚の顔を交互に見やって落ち着かない様子だ。時雨さんなんて、少し離れたところで呆気にとられている。

 お姉さんとしての威厳が……でも、正直に「ヤベーのがいるかと思って突撃してました」「前世の知り合いだったから交戦回避して会話してました」とか言う訳にもいかない。

 ……そうだ。こういう時は___


「……茜塚。」

「なにか言う気になりましたか?」

「ううん、そうじゃなくて___ちょっと言いづらい話だから、その。耳を貸してくれる?」


 私がそう言うと、茜塚は訝しげながらも耳を私に近付けてくれた。

 その素直さに内心ほっとして、私はひっそりと口を開いた。


「あのね……私たちの死んだとこ___彼岸の霊域がこの近くにあって。だから、もし怪異だったら一刻も早く討伐しないと危険だと思って。」


 ___嘘を吐くのはずっと私の苦手分野だ。だからこそ、私をよく知っている茜塚には効果がある。

 事実を混ぜた嘘。まるきり嘘ではないから、私もそれなりにつらつらと言える。

 よく風早さんにこれで騙されたっけ。

 あの人、隠し事多かったからなー。結局、なんで先回りできるのか教えてもらえなかったし。ちぇ。


「……それなら尚更、なんで言わなかったんですか。先輩、わたしだって___」

「茜塚。……私の死因、覚えてる?」

「死……あっ。」


 正面からやっても詰められるだけなら、感情論で揺さぶって思考を鈍らせる。

 そうすれば大抵なあなあにできる。

 ……我ながらひどい手だなあ、と思いながらも勝手に想像して納得していく茜塚の様子に安堵した。

 これ以上詰められてたら、平里の名前がついうっかり口をついて出てしまったかもしれないし。追及を回避出来てよかったよかった。


「……事情は分かりました。でも、先輩。」

「うん?」

「今度はちゃんと言ってくださいね。……たしかに先輩は強いですけど、1人じゃどうにもならないことだってあるんですからね。」


 その言葉にハッとして茜塚の顔を見ると、少し怒ったような___傷付いたような、そんな表情でむくれていた。

 ……そっか。

 守ってた気になってただけで、置いていっただけだったんだ。


 前世だって、私たちはみんなを守ったと同時にみんなを置いて死んだ。

 そこに大義はたしかにあった。けど、遺されたみんなはどうだった?


 …………忘れてた。や、気付きたくなかったんだ。


 『私たちが守ったんだ』って思いたくって。


 『これが最善策だった』って正当化したくって。


 そうじゃないと、私たちが命を懸けた意味がなくなってしまうような気がして。

 ……意味なんてなかったんだって、この世界を見ていれば分かりきっていたのに、自分たちの死が高尚なものであると思い込んでいたかったんだ。


 ……後悔、してるから。生きてたかったから。

 ……ひどい話だけれど。


 悲劇にしたのは私たちで。

 悲劇を生きたのは私たち以外なのに。


 「手を貸して」ってたった一言をあの時言えていたら、違った最期を迎えられたのかな。


「……ごめんごめん。今度からはちゃんと気を付けるね。」


 口から転げ落ちそうになった言葉をぐっと飲み込んで、私はへらりと笑って茜塚から体を離した。

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