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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
千を越えても壊れぬように
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ムボウ

 なんだかよく分からない気まずさがありながらも、とりあえず高梨に休息をとらせるために近くの木陰に移動した。

 高梨の体力が予想以上に少ないのは多分、魔導技術の発展のせい___至る所に転移門があるせいで普段歩いたり走ったりする距離が少ないからだろな。めちゃくちゃ便利だから、あったらついつい使っちゃうだろうし。だって、移動時間が秒になるし。

 ぼんやりとそんなことを考えながら膨れたままの茜塚をとりあえず撫でて、枝葉の隙間から高い空を見上げる。


 そういえば山の天気は変わりやすい、って言うけど……今日はどうなんだろ。雲はほとんど見当たらないけど、もっと上まで登らないと分からないのかな。

 あと山道って登山道でもすぐ埋もれる、とも言うよね。昨日の爆発のこともあるし、もしかしたら落石とか崖崩れとか起きてるかもしれない。

 茜塚はまだしも、高梨はこの感じだと危ないかも……。


「……よし。」

「先輩?」

「古賀?」

「ちょっと先に登って道とか色々確認してくるね。時雨さん、2人をお願いしますね。」

「かしこまりました。」

「え!?ちょっと先輩1人じゃ危な___」

「すぐ戻ってくるから!行ってきます!」


 上から華麗に降りて着地を決めた時雨さんに内心驚きながらも、まあそういう時もあるよねと頷いた。そして茜塚と未だ脇腹を痛そうにしている高梨を任せて、段々畑の間の坂道を駆け上がる。

 元は山といっても心臓破りとかそこまでいかない。そんな程度の勾配だけれど、自転車とかだと多分漕ぐのが大変だろうな。長いし。

 土を歩き固めた道は、落ちた朝露で少し柔らかい。暑くなってきたとはいえ夏とは程遠い気温だから、早朝とは呼べない時間でもまだ乾ききっていないんだろな。


「……あれ?古賀のお嬢様ーーー!そんな走ってどこ行くのーーー?」

「森の方ですーーー!」

「山ん中___ここも山だけど___は急に崖になってるとこ多いから、気を付けるんだぞーーー!」

「はーーーい!」

「塩飴持ってきなーーーー!!」

「ありがとーーございまーーーーす!!!」

「袋返さんで良いからなーーーー!!!」


 投げられた巾着を走りながら受け取る。やっぱ畑仕事って朝早いもんね。人いっぱいいる。これなら安心。

 まあでも……ほぼ全員から声かけられるのはよく分かんないけど!


「芋蒸かしたの持ってけーーー!」

「どうもーーー!!」


 やたら食べ物貰うのも分かんないけど!……おいしそう。朝ごはん食べてからまだそんな経ってないんだけどな。食欲がそそられちゃうな。

 走りながらアルミホイルに包まれた小ぶりなおいもを上着のポケットに、飴の入った巾着をズボンのポケットに突っ込んだ。

 さすがに絆創膏とかと一緒に食べ物入れる訳にはいかないもんね、と胴体に斜めに掛けた小さなポーチをちょんと小突く。

 ……ところでこれ、子供扱いされてるのかなぁ。もしくは孫?

 私は仲良くなかったから経験ないけど、祖父母の家に行くと大量の食べ物が出される、ってよくみんな言ってたし。


 そうこう考えてるうちに周囲の景色は本格的に森に変わっていた。

 陽光すら満足に地面に届かないほどに鬱蒼と茂る木々。僅かに差す光に群がるように生える露草。頭上で枝を震わせて羽ばたく鳥。

 たった少しの距離でも、人の手が入らなければ全て自然に還る。自然の侵食に抵抗し続けなければ里山の農業は成り立たない。そんな当たり前のことを実感した。


「よいせー……っと。」


 道の真ん中に鎮座していた大きめの水筒くらいの落石を道の端に追いやって、登るための道を確保する。

 上の茂みのボロボロ具合からいって、ここに落ちて来てからあまり時間が経ってないみたい。昨日の爆発で飛んできたとか?

 でも、それにしては全体的に苔むしてて割れた跡とかはないんだよね。じゃあ、振動で落ちてきたとか?

 てるてる坊主みたいな石をじっと眺めてみたけど、さっぱり何も分からない。

 平里とかみたいに洞察力が良い訳じゃないから、見たままのことしか分からない。

 もっと頭柔らかくなりたい……。


 ……ま、それは1回置いといて。とりあえず先に行こう。早く道を確認して早く戻ってあげないと。そんで早く修行したい。

 せめて、この連休中に少しでも『死ににくく』ならなきゃだし、してあげないと。

 少しでも強くして……基本的な怪異への対応法覚えさせて、色々な地形に慣れさせて、体力つけさせて、異能の効率的な使い方できるようにして。

 そうしなきゃ、きっと遅かれ早かれ死___


「うわ……っと!……危なかったー……」


 脆くなっていたのか、足を乗せた途端崖側の道の端がぱらぱらと崩れ落ちた。


 危なかったー。霊力で身体強化したって、落ちたら泥まみれになるのは確実だもん。そんなことになったら先輩としてかっこつかない。


「うーん……この辺まででいっか。」


 あんまり奥まで行っても危ないし。

 獣とか……あと、もしかしたら怪異もいるかもしれないし。

 ここに来るまでだけでも結構色んな足場の状態があったから、きっとこれで十分だと思う。あくまで訓練だし。

 私はそう結論づけると、急いで踵を返した。


***


「……」

「……」


 走って戻ると茜塚と高梨は互いにそっぽを向いていた。

 なにかあったのかと思って時雨さんの方を向いたけど、時雨さんは少し楽しそうに首を横に振った。教えるつもりはないらしい。


「……ねぇ、2人とも。何かあったの…?」

「何もないですよ。」

「ああ。何もなかった。」


 そんな訳ないよね?

 明らかに喧嘩した後の雰囲気だよね、これ。

 でも2人揃って言いたくなさそうだし、仲裁が必要なほど幼くないから無理に聞き出すのはちょっと……。困った。

 時雨さんに再び視線を向けてみたけど、やっぱり教えてくれる気はないらしい。ちぇ。


「……今日は修行やめとく?」

「なんでですか?」

「だって、こんな状態で怪我したらバカみたいじゃない……?」

「そこまで子どもじゃないから大丈夫ですよ。……そうですよね?」

「ああ。」


 そう言いながらも、2人ともむすっとした顔のままだった。

 良いのかなぁ。大丈夫なのかな。

 でもこう言ってることだし、やった方が良いのかなぁ。


 うーん……深くないところで軽く、くらいなら大丈夫かな。


「……わかりました。その代わり、喧嘩せずに指示に従って下さいね?」

「もちろんです!」

「わかった。」


 この時の私は、少しの不安を覚えながらもどこか楽観的に考えてしまっていた。

 前日に常世教団の襲撃という事件があったにも関わらず。

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