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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
千を越えても壊れぬように
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××××の×

 きらきらと瞬く朝露が、澄んだ空気が、小さな草花が、鳥の唄が、今はただただ煩わしい。

 綺麗だと思っていたのに、綺麗なままのはずなのに、どうしてか目に映るものが醜く思えてしまった。


 ……兄さん。


 兄さんにそんなことをさせるこの村は嫌い。でも、敵ばかりの現状ではそんな好き嫌いだけでは何も守れないから…汚れ仕事は誰かが請け負わねばならない。


 じゃあ、根源を断つにはどうしたらいい?


 どうすれば、こんなことを兄さんに…誰にもさせなくても良くなる?

 魔導学園を変えても他が変わらなければ意味がない。

 今はよくたって、いずれ雪村たちも同じことをしなければいけなくなる。鈴代たちだって……綺麗なままではいられない。

なら、どうすればいいの?


 常世教団潰したって残党が散ってより面倒になるばかりだろうし。


 日本解放軍に頼ろうと思ったって、敵組織の人間を信用するわけない。


 どうすればいい。どうしたら、みんな助かる?

 どうしたら……あの頃みたいに………


 ……ああ、そっか。簡単な話だった。最初っから、私は知ってたのに。

 そうだよ、単純な話だ。

 全部、壊しちゃえばいいんだ。


 なんで陰陽師なのに魔導学園にいたのか、やっと分かったよ兄さん。

 兄さんは___獅子身中(魔導学園)(陰陽師)だったんだ。


 魔導学園を、手勢を集めて内側から崩壊させる、堤の蟻。いくら陰陽師だとしても学友、ましてや権能を使って命の恩人にでもなれば、未熟な彼らには密告できない。

 未だに、初手でやらかした私が雪村たちに密告されていないように。


 でも、私が起きてしまったから、何も工作とかしないで見守ってくれてたんだろう。記憶が偏っているのも、兄さんなりの優しさだったんだろう。

 「ちゃんと学校生活を楽しんでみたかった」って、いつだったか言ったのをきっと覚えててくれたんだ。だから、私の邪魔はせずに支援に徹してくれてたんだ。


 吸血蠍(アンタレス)の時も、布施の時も、きっとのっぺらぼう(ノーフェイス)の時だって守ってくれてたんだ。

 なのに、そんなこと知らないで私ばかりがのうのうと楽しんで___


「……馬鹿だね、兄さん。」


 悔しい。情けない。嫌だ。

 全部私のせいと言うほど自惚れてはいないけど、でも、全体的に見ればこの現状は私のせいだ。

 私が、いなければ今頃兄さんは___


「…先輩?起きたんですか?」

「!……茜塚。おはよ。よく寝れた?」


 鈴のような可愛らしい声にはっとして、即座に笑顔を貼り付けて振り向いた。


「はい!…でもごめんなさい、先輩。」

「どうかしたの?」

「夜中にお腹空いてしまって……枕元にあったおにぎり、全部食べてしまいました。」

「ああ、なんだそんなこと……。別にいいよ、そのつもりで置いてあったんだろうし。茜塚、ご飯食べずに寝ちゃったから。」


 兄さんが頼んでくれたのかな。私たちだし、同じ気の回し方しても何らおかしくはない。


「せ、先輩…あの、でもおにぎり結構山盛りあったんですが…とても一人分だったとは思えなくて……」

「茜塚は権能使うと途端に食いしん坊になるからその辺見越してあったんじゃない?それに、もし私の分含まれてても茜塚なら余裕で許せるからそんな気にしないで良いよ。」

「うう…ありがとうございます。」


 茜塚はそう言って、しゅんとしながらも安心したような表情を浮かべた。


 …かわいいな、茜塚は。


 醜くなってしまった世界の中で、彼女だけが相変わらず綺麗に見えた。


***


 その後、着替えたり布団を畳んだりしていると時雨さんが「朝餉の時間ですよー」と元気よく呼びに来た。昨日と面布の色が変わっていて、なんだか間違い探しみたいで少し面白かった。

 けれど、高梨にも声を掛けようと茜塚を残して部屋を出た直後、暗い顔をした時雨さんがとぼとぼとやってきた。

 なんだろう、と思っていると時雨さんは重たい口をもっそりと開いた。


「……古賀様。申し訳ございませんが母屋の方に来ていただけませんでしょうか。」

「?ここじゃダメなんですか?」

「それが…現当主様のご命令でして。『今日の朝食は離れのと摂る』、と…。」


 『離れの』、ねぇ…。

 当主について記憶にないってことは、兄さんが制限かけるくらい良くない記憶と結びついている人物ってことなんだろな。

 いくら真名を呼べないからと言って、兄さんに対してその呼び名はあんまりだと思う。家族でなくともせめて渾名とか愛称で呼ぶのが常だったもの。


「…ごめんなさい、時雨さん。絶対嫌。」

「ですよねー。…ん?古賀様、今、『時雨』と呼びましたか?」

「『会いたければテメェが来い』って言っといてください。」

「古賀様!?」


 古賀爽耶(兄さん)に対してどんなことをしたのか分からないけど、でも少なくともそんな突然呼びつけられて行ってやるほど私は優しくない。


 絶対行かない。断固拒否。


 何もしないってことはそのへん兄さんも同意してくれてるってことだろうし、行かないどこ。無駄に嫌な思いする必要ないし。

 自分たちを守るためにはきっと、我儘なくらいがきっとちょうどいい。


「古賀様〜…。それ、一言一句違えずに言わなければいけませんか…?」

「もちろん。」

「えぇぇ〜……」

「お待たせするのも悪いですし、早く行ってきてください。ね。」

「分かりましたよぉ……」


 渋々重い足を引きずっていく時雨さんを見送って、私は高梨の所へ向かった。

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