君のため
お風呂から上がって用意されていた服に着替えて髪を乾かす。白いワイシャツに黒地に白の細い縦縞模様の半ズボン。かっちりしすぎな気もするけれど、どことなく兄さんがよく着てたものに似ているから良しとしよう。
黒い短い靴下を履いて髪を束ね終わると、脱衣所を出て離れへと向かうべく一度玄関へと向かう。縁側から入って来たけど、靴はこれまた面布を垂らした女中さんらしき人が「靴箱へお入れします」と有無を言わさずに持って行ってしまったから。
誰もいない廊下に、ぎぃぎぃと不気味な音だけが響く。
こんなに広いのに誰ともすれ違わないなんて変だな、と思いながらも早く離れに戻りたくて急いだ。急ぐと言っても、さすがに廊下を走ると危ないから早歩きで。
実家…前世の方の。と同じような配置になっているらしく、その辺松也のこだわりなのかなと歩きながら考えた。
かつて何があったかは分からない。けれど、全て捨ててまで逃げなければならなくなるほどの事があったらしい、というのが高梨家に伝わる『盟約』と一緒に語られていた。話に出てきたのが松也と小鳥遊だから、だいたい千年前?…まさか、私たちが死んだすぐ後?
霊域の主の消失まで確認したけど、まだ何か見落としていたんだろうか……。
「……っと。危ない危ない。」
行き過ぎるところだった、といつの間にか通り過ぎそうになっていた玄関の左右に備え付けられた、ロッカーのような蓋付きの木製の下駄箱に手を伸ばした。
これも同じなら、と側面にある魔導回路に軽く魔力を流し込む。すると、かたんっ、と軽快な音が響いてひとつの蓋が開いた。
各棚に魔力の波長を記録して鍵の代わりにする魔導具。家具ではなく設備としてのものだから、値段もかなり高いし手間もかかるタイプ。よく逃げ延びたあとで設置できたな。
…そういえばコレ、学園にはなかったな。さすがにこういう日常使いの魔導技術も失伝しましたー!なんてことはない…と、思う。思いたい。
高くて大変だから……だよね?そういうことにしておこう。
蓋の開いた棚から靴を取り出そうと中を覗くと、預けたのとは別の靴が入っていた。
誤作動かな?それとも…今の私と元の私の魔力が違うとか?
でも、それならそもそも登録されていないんだから開かないはず。実家…前世の。から持ってきているなら見知らぬ、しかも新品の靴が入ってるのはおかしい。
脛の半ばまでの丈の、短めの黒いブーツ。しかも、踝とつま先、踵が硬い素材で覆われている丈夫なやつ。
……これ、『彼の方』の仕業だったりして。なーんて…怖……。でも、これ以外に履けるものないしな。さすがに裸足で行くわけにもいかないし。
そのブーツに得体の知れない恐怖を覚えながらも、私は渋々足を入れた。
サイズはピッタリだった。
……怖。
***
庭を突っ切って離れに戻ると、何やら険悪な空気になっていた。
高梨と茜塚はお互い背を向けてるし、面布さんは正座したまま微動だにしてないし。
あまりの空気の悪さに室内に入れずにいると、私に気付いた面布さんが声を上げた。
「ああ、古賀様。お戻りになられましたか。」
「あ、はい…ところであの、これはどういう……?」
そっと面布さんに尋ねると、突然高梨と茜塚がこちらを向いた。
「先輩!」
「古賀!」
「わたしの方が」
「俺の方が」
「役に立ちますよね!?」
「役に立てるよな!?」
「……え?」
解説を求めて面布さんの方へ視線を向ける。すると面布さんは「お2人とも、幼稚ですよね」と笑っていた。
…もしかしてコレ、やきもち?
か、かわいい〜。
そうだよね。高梨だって大人びてるとはいえ子どもだし、茜塚に至っては私が今世で初めての「遠慮せずに頼れる年上」なんだもんね。ここはお姉さんな私が仲裁したげないとね。
そう息巻いてる私を見て、面布さんは「そういえばあなたも中々幼稚でしたね」とポツリと呟いていたが気にしないことにした。
お姉さんだからね。
享年25(現15)(誕生日前)
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現17(誕生日前)




