遠雷
山道を転がるように移動する集団。揃いの蝶の腕章を付けた彼らは、なにか恐ろしいものから逃げるかのように必死に駆けていた。
まだ昼だというのに薄暗い森。どこかで鳴く獣。その環境全てが視界が悪く、いつどこに何が潜んでいるか、と彼らの不安を掻き立たせていた。
「……揖屋村襲撃しようって言い…」
「………上からの命令になんて誰も逆らえない……」
ボソボソと小声で会話しながらも逃げ惑う彼らは、今も誰かの見張られているような恐怖を感じていた。
揖屋村。倭国内唯一の中立地点。
中立であるが故にどの組織にも肩入れせず、襲ってきた輩をことごとく撃退してきた。
さらに言えば、未来予知じみたことをして相手の作戦を失敗させ続ける化け物じみた頭脳の部隊がいるため、害意を持って揖屋村へ向かった中で生還できた人はいない。
だから、彼らは怯えている。警戒して、疑っている。
「絶対に何かしてくるはずだ」、と。
「気付かれているに違いない」、と。
疑って、疑って、疑って。
「あれ?もしかして出し抜けたのではないか?」と気が緩んだとき___
普段なら気付けたような、粗雑な罠にも引っかかるのだ。
***
「おー……派手に掛かったな…」
黒髪の青年は離れた木の上に胡座をかいて、頬杖をつきながらつまらなそうに爆発を眺めていた。
有り合わせの材料で作った、隠す気もない火薬トラップ。旧時代の技術を応用して作った連鎖式の地雷。
警戒していれば臭いで気付けただろう。もしくは、不自然に盛り上がった箇所に気付けただろう。
だが、彼らは気付かなかった。
麓までは少し遠く、追撃を仕掛けるには向かない急斜面。
だから、彼らはその場に留まることすらできないのだ、罠を張るのは不可能だ___と判断した。
陰陽師であるはずなのに、目に見えない権能を知らなかった故の油断。まさか物作りの才までもが権能として現れるなどと考えもしなかったのだろう。
「自分たちこそが至高だ」と閉じた集団で反響するように膨れ上がった愚かな自信が、見下していた『無能』の技術に対して盲目にさせたのだ。
「……帰るか。」
青年___羽世は立ち上がると枝の先に手を伸ばし、黒いマントを被って別の木へと飛び移った。
かつて彼らが死んだ場所。かつて自分が殺された場所。
全ての惨劇の、始まりの場所。
帰路につく途中で、羽世は植え損ねた差し木用の枝を腰に挿していたことを思い出したが、こんな時に植えてもなと山を後にした。




