××譲りの口八丁
「彼女は……たしかに常世教団の人間です。」
どう考えても、これは服装やら遭遇場所やらで誤魔化しようがない。嘘をついて今はなんとかなったとしても、いつか絶対にボロが出る。
「な…ではなぜ……」
なんで襲撃者と一緒に行動してるのか、と問い詰めたげな面布さんや周囲に集まってきた人々を見回して、私はぐいっと茜塚の肩を引き寄せた。
「ですが、それと私たちに何の関係が?」
「え?」
困惑する面布さんから波及していくように周囲にざわめきが広がる。
そりゃあそうだよ。だって敵であるはずの常世教団の構成員と『古賀』が仲睦まじそうに一緒に行動してるんだもの。
疑いの目が向けられている。でも、確信できずに困惑している。だからこそ押し通せる。押し通す。
いつか風早さんがやったように。いつか兄さんがやったように。
私だって、ただ守られてただけじゃない。ちゃんと見ていたんだから。
「…ねぇ、茜塚。常世教団に戻りたい?」
コソッと一応尋ねると、茜塚は首を小さく横に振った。
「嫌ですよ、もう……。だって教団内で産まれた赤ちゃんに霊力がなかったら、捨ててくような集団なんですよ?」
「そりゃダメだね。」
「はい。ものすごくダメです。」
めちゃくちゃな倫理観の団体なんだな、と思うと同時にほっとした。
そんな場所に、そんな奴らに茜塚が未練を抱くはずがないから。
私の傍に居着きたいと、思ってくれるはずだから。
「こ、古賀様。」
痺れを切らした様子で面布さんが名前を呼んだ。
「なんですか?」
「あの、襲撃者ですよ?本気で言ってますか?」
「冗談で言ってると思いますか?」
「思わないですが…。敵勢力ですよ?」
「たしかに常世教団『は』そうですね。」
ゆっくりと深く頷いて、面布さんの顔をじっと見つめた。
繕うのは表面上だけでいい。
あの静かな威圧感を、真似出来ればそれでいい。
「ですが…果たして構成員全員が、我々の敵であると言えるのでしょうか。」
息継ぎは長めに。語り口は穏やかに。語気は強めない。
発される言葉に、一本芯が通って聞こえるように。
めちゃくちゃな理論でも、説得力があるように聞こえるように。
「……と、言いますと?」
「常世教団は魔導学園とは反対に『霊力のある人間のみ』の閉鎖的な場所でしょう?ですが、使える権能にはもちろん個人差がある。」
「そりゃあ、まあ。そうでしょうね。」
「そんな状態が長く続けば、どうなると思いますか?」
「……まさか。」
「権能の利便性や攻撃性によって階級付けがなされていても、不思議では無いでしょう?
…それに、合わない者がいることも。」
「確かに…」
面布さんが納得したようにそう零すと、周囲のざわめきも茜塚に対する同情へと変わっていった。
私は、それが茜塚のことであるとは言っていない。
けれど一人が勝手にそう思い込めば、それが波及して事実と思い込む。
大多数の人間というものは、周囲の空気に流されやすいものだ___結束力が強ければ特に。
だからこそ、頑として強固な集団を維持できるのだ。…その選択が正しいかは置いておいて。
ともかく、これで下地作りは大丈夫だろう。
茜塚がまだこども___少女の姿をしているのも相まって、「逃げてきた子かもしれない」、あるいは「受け入れてあげれば敵集団の内情が知れるかもしれない」と付け入る隙ができあがったのだから。
真似しただけでこの結果。…人たらしってこういうカラクリなのかもしれない。
「…あの、納得していただけたのなら離れに戻りたいのですが。…その、着替えとか…」
少し恥じらう様子を見せながらそう言えば、すっかり疑いのない様子で彼らは道を開けてくれた。一部の人なんて「お湯を沸かして参ります」とか「娘のお下がりでよろしければそちらのお嬢さんのお着替え用意いたしますよ」とか言い出す始末。
同情されるのは嫌いだけど、同情ほど利用しやすい感情はない。
……なんか詐欺してるみたい。いや、実際それに近いことしてんだけど。
ぐっと腕を伸ばして緊張を解くと、私は茜塚の手を引いて離れへと向かった。
9/7 18時
次話更新あります




