いつかの私たちへ②
そうして茜塚と一緒に村の方に戻ってきたは良いけど____意外なことに、誰も彼も、建物すらも無傷だった。
「え?あれ…」
爆発は……?ここじゃないなら、どこで……?
「あ、古賀様。お戻りでしたか。」
困惑して立ち尽くしていると、ぴんぴんした元気そうな様子で面布さんがやってきた。
こっちも無傷。どころか汚れ一つない。
つまり、交戦してない。
じゃあ、どういう…?あれが陽動じゃなかったとしても、侵入前にあんな目立つような真似するかなあ。木々に囲まれてるんだから、山火事の危険性だってあるのに。
迎撃するにしても、この地形を活かして遊撃したり挟撃したりと隠密行動が基本になるから、臭いのつく爆薬なんて…。
「…あの、高梨は…あと爆発って…」
「ああ、お連れ様なら変わりなく離れに。あれは…どうやら奴ら、罠を踏んだみたいで。」
「わな」
「駆けつけたときには爆散四散、木っ端微塵でした。」
「こっぱみじん」
…エグい。いくらなんでも、対人相手にエグすぎる。
かわいいかわいい茜塚が引っかかってたらどうしてくれんの。
ドン引きして半歩下がると、面布さんは焦った様子で首と手を横に振った。
「違います、違うのです、古賀様。」
「何がですか。」
「その罠を仕掛けたのは我々ではないのです。」
「え?……どういうことですか?」
嫌な予感がする。
半ば無意識に茜塚の手を握りしめながらそう尋ねると、面布さんも真剣な声色で答えた。
「我々も知らぬ間に、あの罠が仕掛けられていたのです。我々は殺すにしても生け捕りの後尋問を経てからがルールになっておりますので…。てっきり、古賀様方が仕掛けたものとばかり。」
「そんな勝手なことしませんよ。」
「そうですか。」
「彼の方はよくこういうことをなさっておられたので」、となんでもない風に面布さんは付け足して顎に手を当てた。
嘘でしょ?本当に誰なんだろう、『彼の方』って……。
少なくとも、兄さんとか風早さんではないだろうけど。だって、あの二人はそういう残虐なことはしないだろうし。
そうなると……布施さんとか?かつての六大家門であった頃の女性当主。淑やかな外見とは裏腹に前線で薙刀をぶん回し、気に食わない奴は投げ飛ばし。立てば芍薬座れば牡丹、戦う姿は嵐が如し、の。…でも、あの人は総角さん以外に興味ないから違うよね。私をここに留めたがる理由がないし、総角さんに手を出した訳でもないから殺す動機もない。
倫理観がアレなだけで、そこまで戦闘狂という訳でもないし。
まあ、今はそんなことは置いといて。
誰でもないなら、あれは一体誰の仕掛けた罠?
いくらなんでも、自分で仕掛けた罠に自分で引っかかるほどの間抜けを派遣してくるわけないし……第三者がいた、と見るのが一番自然だよね。
……そういえば。
「ねえ、茜塚。」
「はい!何でしょうか。」
「もしかしてだけど、茜塚たちのいた方にも罠ってあった?」
茜塚の権能があれば、木製だろうが金属製だろうが関係なく、蝶の通れる隙間さえあれば内部に侵入できる。
全員で入るにしても鱗粉で腐食させれば良いだけで、わざわざ目立つようなこと___爆破なんてしなくても可能だし。
ってことは、私の推測が正しければおそらく___
「はい。引っかかったら爆発する…ぶーびー?でしたっけ。そういう感じのものが。」
「やっぱり。」
大正解。ちょっと嬉しい。
状況的にはかなりマズイ事実だけど。
「爆発してたみたいだけど…もしかして、誰か引っかかった?」
「いえ、引っかかってはないです。見つけたので処理しただけで。枝と石をこう、結んでからわたしの蝶々で運んで…」
「あー、そっか。なるほど。」
ある程度の大きさと重さがあれば引っ掛けるだけで作動するのか。私の後輩あったまいー。
「ですが先輩。それはそれとして…問題は『誰が』仕掛けたかですよね。」
「うん。……場合によっては、三つ巴の戦いをこの村の人間だけで何とかしなきゃだから……」
「それは一大事ですね…いくら個々の練度が高くても砲撃とかされたら一溜りも……」
「ほんとにねー。」
少数精鋭は指揮系統が短く分かりやすいから司令部みたいな大きな弱点を作らなくて良いけど、人数の少ない分相手が大規模攻撃手段を持っていた場合はそれを活かせない可能性がある。だって、いくら一人一人が強くてもその場を焼き払われたら強みを出す前に死んじゃうし。
「あのー、ところ古賀様。」
「なんですか?」
「そちら方はどういうご関係で?」
あ。
「見たところ、常世教団の者では…?なぜそのように親しくされているのですか?」
…やっべ。すっかり忘れてた。
ちらりと茜塚の服装に目をやって、腕で存在感を放っている赤い蝶の腕章に頭を抱えた。
誤魔化しようがない……!完全に常世教団……!
いや、逆に誤魔化さない方がいいのかも?怪しまれ続けるよか最初から「かくかくしかじかで〜」って言っておいた方が良いのでは?
私には先輩として茜塚を守る義務がある。
そして、この場で茜塚を守れるのは私だけだ。
どうするのが茜塚にとって最良の結果になるか、しっかりと見定めなきゃいけない。
私は小さく息を吸い込むと、意を決して口を開いた。
「彼女は___」




