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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
紅白咲かず枯れ落ちて
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いつかの私たちへ①

 ___茜塚が言うには、『常世教団』で一番強い異能者、もとい陰陽師が『常世様』と呼ばれ担ぎ上げられるらしい。で、その『常世様』が死ぬか他の陰陽師に負けるかすると代替わり。

 そんで『常世様』には頭領としてあらゆる差配権が与えられるってことだけど…話し方からして多分、実質的な頭領は別にいてあくまで象徴的、傀儡的な頭領、といった感じかな。よくある関白政治的な?摂関政治?どっちだっけ。


「……まー、色々言いたいことはあるけどさ…頑張ったね、茜塚。」

「…はい!」


 私が軽く肩を叩くと茜塚はしゅっと背を伸ばして、安心したように笑った。


「そういえば久山先輩。」

「なーにー?」

「拘束しなくて良いんですか?」

「…あっヤバ!」


 忘れてた!


 茜塚の一言にハッとして、転がっている黒装束たちに駆け寄った。


 …よかった、まだ意識は戻ってない。

 でも縄とか鎖とか、縛れるもの持ってないや。あ、そういえば昔、平里が確か詠唱で拘束してたな。


 えぇーっと…確か…


「《束縛(ナウシズ)》…?」


 うろ覚えながらもそう唱えると、しゅるしゅると光る紐が目の前の黒装束の胴体に巻きついた。

 どうやら合ってたっぽい。よかった。


 でも、なんか平里のやつと全然違う。平里のはもっと、こう、ぶわーっ!て感じだった気がするんだけど。

 一回唱えたら全員拘束できてたと思うんだけど。


 なんでだろ。経験の差?魔力操作の精度とか?

 うーん…昔なー…一応、詠唱の呪文の表もらって教えてもらったんだけど忘れちゃったからなー…その上で失伝してるからなー……。


 そういう点を含めて現代の魔導師は、はっきし言って昔よりも確実に弱体化してる。

 魔導具がなければ魔力を扱う術がない、ってことは、壊れたら怪異相手に打つ手がないということに他ならない。

 いくら異能を扱うための特殊な武器であるとはいえ、物は物でしかない。形ある以上、壊れることは必然のこと。

 だからせっかく異能を持っているのに壊れたら為す術なし、なんて宝の持ち腐れだ。呪文の種類が少ないとはいえ身一つで異能を行使できたあの頃の魔導師と、現代の魔導師のどちらが強いかなんて火を見るより明らかだよね。


 ちまちまと一人ずつ拘束しながらそんな風に考えていると、村の方から小さく爆発音が耳に届いた。

 確か、あっちは陽動要員っぽい侵入者たちがいた方…交戦中なのかな。


 ……つい、任せて来ちゃったけど…高梨は大丈夫だろうか。っていうかまず、なんであの時急にあの面布さんのこと信用してたんだろ。肉体の記憶とか?だとしても…ううん、今はとにかく急ごう。そっちの方が考えるよりも確実だから。


 最後の一人の拘束を終えると、私は隣の茜塚の肩を叩いた。


「先輩?」

「あのさ、茜塚。…その、再会したばっかで悪いんだけど……」


 …あれ?

 手を貸して、と続けたいだけのはずなのに声が詰まった。なんでだろう。言葉にするだけのはずなのに、どうしてこんなに躊躇してしまうんだろう。

 ああでも、そういえば…素直に助けを求めたことなんて、無かったかもしれない。相手の負担になりたくなくて言えなかった、ってのもあったけど、手遅れになる前に兄さんとか平里とかが毎回何も言わなくても助けてくれてたから言う必要がなかっ…言う前に気付いて……あれ?


 ……気にしたことなかったけど、そういえば……なんで、あんな都合よく毎回いたんだろ?まるで、これから起こることが分かってたみたい…?

 …や、そんなわけないよね。だって、知ってたとしたらあの彼岸を前に何の対策も立ててない訳ないし。……私たちが死ぬ必要なんか、なかっただろうし…。

……

…………

…考えるのやめ!


 これ以上は今さら意味ないし、暗い気持ちになるだけだし。

 そんなことよりも、今は___今は!


 抜け出せなくなりそうな頭を無理やり切り替えて、茜塚の真っ黒な瞳を見つめる。

 言わなきゃ。言わなきゃ。

 じっとりと手が汗ばむのを感じる。口の中が、乾いていく。

 言わなきゃ。じゃないと、きっとちゃんと伝わらない。


「…茜塚、えっと…手を…手を、貸して!」


 詰まりながらも、なんとか裏返りそうな声でそう言いきる。言えた。

 言えた、けど。なんだか緊張して心臓がバクバクしてきた。

 なんでだろ。茜塚なら絶対に無下にしないって分かってるのにな。


……どうしよう、断られたら。


 一応敵、だもんね。一緒に来てくれるとは、限らない___


「…先輩、久山先輩。」

「っ!だ、だめかな…?」


 つい気弱になって恐る恐るそう尋ねると、茜塚は少し呆れ気味に笑った。


「何言ってるんですか、先輩。わたしのことを誰だとお思いですか。」

「茜塚。」

「そう、そうですよ。先輩の後輩の、茜塚優希です。

だから……そんな顔、しないでください。」


 茜塚はそう言って、そっと私の手をとって微笑んだ。


「行きましょう、先輩。」

「!…っうん!」


 これじゃ、どっちが先輩なんだか分かんないや。

 私が茜塚の手を握り返して頷くと、茜塚はようやく満足そうな表情をして笑った。

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