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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
紅白咲かず枯れ落ちて
49/107

後輩

「え…?」


 今、なんて…


 聞き間違いを疑ってみたけど、いくら考えても別の意味が思い浮かばなかった。

 この陰陽師は___彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「どうして…知ってるの……?」


 違うんじゃないの?

 君は、あの子じゃないんでしょ…?


 今度は私がそう疑問を零す番だった。

 目の前の陰陽師の表情は、黒子頭巾に阻まれて少しも分からない。


 しばらく何も言葉を発することができず、互いに動けないまま見つめあっていたが、先に陰陽師が口を開いた。


「その顔も、色も…霊力も、呼び方も……

どうして、あなたが先輩の形をしているんですか?」

「……え…?」


 『先輩』。


 その呼び方、は。


 もしかして、本当に___


「答えてください!

なんで…なんでっ……先輩じゃ、ないのに……」


 上擦った声が、震える肩が、見えない表情以上に彼女の感情を示していた。


 彼女は、この子は、『私』を知ってる。

 なら、もしかして、本当に、もしかして。


「私…私の名前、は……」


 声が震える。


 ああ、私。こんなに臆病だったかな。

 信じてもらえなかったらどうしよう、なんて。


 深く息を吸い込んで、鼓動を落ち着ける。

 大丈夫、ちゃんと覚えてる。だから、答えられるよ。大丈夫、大丈夫。


「私は、久山。久山楓。


…久しぶり。茜塚。」


 久々に口にした自分の名前は、やっぱり私の名前だった。


「…っ…先輩…!」


 駆け寄ってきた茜塚を抱きとめて、彼女の被っていた黒子頭巾を外すと、顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れてしまっていた。

 綺麗にまとめられていたであろう、墨色の髪はすっかり乱れて頬に張り付いていた。


 それでも、やっぱり茜塚は茜塚だった。

 目頭が熱くなって、鼻の奥がつんとした。


「あらら、なにか拭くもの…」


は、右手に巻いてたんだった。


「…大丈夫、もう大丈夫だよ。」


 すっかり汚れてしまった手巾(ハンカチ)にため息をついて、可愛い可愛い後輩を抱きしめてそのまま落ち着くのを待つことにした。


***


「ずびばぜん…」

「いいよ全然。落ち着いた?」

「ばい゛…」


 すんすんと赤くなってしまった目元を擦りながら鼻を鳴らして、陰陽師___茜塚は頷いた。


「ゔ〜……感極まっちゃったとはいえ、この歳で大泣きするなんて…」


 茜塚のまだ涙の跡の消えない間にもくるくると変わる表情が微笑ましくて、思わず笑ってしまった。


「笑わないで下さいよ〜!

…でも、先輩はいつだって冷静なのにわたしだけ大泣きしちゃって恥ずかしい…うう…」


 冷静…そう見えるんだ。

 ほんとは茜塚が泣いてるから一周まわって落ち着いて、慰める方に思考が傾いてただけなんだけどな。

 私も平里との再会がこういう状況だったらギャン泣きしてたけどね、きっと。っていうか今だって泣きたいくらい、嬉しいのが収まらない。


「……そんなに冷静に見える?私…」

「?はい。」

「そっかー」


 そっかー。冷静に見えるんだ…へへ。

 ってことはつまり、茜塚からは私が平里とかことちゃんみたいに見えてるってこと…?

 かっこいい先輩に見えてるってことだよね?


 ……ダメだ、ニヤけちゃいそう。かっこいいままでいたいのに。


「んん…そういえば茜塚。なんで常世教団と一緒にいたの?」


 倒れたままの黒装束たちにちらりと視線を向けると、茜塚は悲しげに目を伏せた。


「……先輩は、それを聞いてわたしのこと嫌いにならないですか…?」

「なる訳ないでしょ。」


 私のかわいい後輩なのに。

 間髪入れずにそう返すと、茜塚は笑った。


「あはは、即答ですか。」

「そりゃねー。かわいい後輩の、頼れる先輩ですので。」

「そういえばそうでした。」


 二人で顔を見合わせてくすくすと笑うと、やがて茜塚は真剣な表情で口を開いた。


「先輩は…『常世様』ってご存知ですか?」

「トコヨサマ?」


 聞き覚えのない単語に、私は首を傾げた。

 『トコヨ』ってことは常世教団と関係があるんだろうけど…重要人物?頭領とか?

 ……ううん…


「…ごめん、分かんないや。それが茜塚と関係あるの?」


 黒々とした茜塚の瞳を覗き込んで私が尋ねると、茜塚はぎゅっと唇を噛んで目を伏せた。

 言いづらいことなのかな。それなら


「茜塚。言いづらいことなら別に無理しなくても___」

「いいえ。言わせてください。

……先輩だけには、言わなきゃダメなんです。絶対…」


 茜塚はそう言ってすーはーと大きく深呼吸を繰り返した。


「…よし!

言います!」

「はいよー。聞くよー。」


 腹を決めたらしい茜塚がピンッと背筋を伸ばして手を挙げた。私も軽く手を挙げると、茜塚は両手を胸の前で組んだ。


「わたし、わたしは……

わたしが、その『常世様』なんです…!」

「おおー…?」


 ……それがどういう意味を持つかは分かんないけど…もしかして、今世の内乱に思ったより巻き込まれてるんじゃない?私たちって……。

 この場にいない平里のことを思い出して、私は憎らしいほどに雲ひとつなくなった空を仰いだ。


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