よっしゃやったらー
「半鐘…物見櫓の方ですね。なにかあったのやも…って、古賀様!?」
考えるより先に、走り出していた。
目につく中で1番高い場所、倉の屋根に飛び乗って、未だ鳴り止まない鐘の音の方角を見た。
高く突き出した櫓の近くを、奇怪な声を上げた鳥の群れが、森の上をバサバサと飛び回っている。
鉱物のような硬質な質感を放つ羽に、一瞬怪異かと思ったけど、そういった気配はしない。ただの進化だろう、と早々に結論づけて目を凝らした。
早く、原因を特定して高梨を避難させないと…!
こんなにガンガン鳴らすってことは、何か緊急事態が起きてるってことだろうから。
怪異とかなら良いけど、山津波とかならすぐに動かないと……巻き込まれたら、まず助からない!
必死に目線を走らせ続けて、目に付いたのは___木々の間を移動する、赤い蝶の腕章をつけた、バラバラの服装の集団だった。
確かあの印は…
「常世教団…?」
なんでここに?
何かに気付きそうになった気がして考え込んでいると、下で両手を振っている面布さんが視界に入った。
「古賀様ーーー!」
「なんですかーーー?」
「何か見えましたかーーー!?」
「赤い蝶の腕章つけた奴らが、こっち向かって来てますーーー!!!」
「常世教団ですねーーー!ありがとうございまーーーす!!!」
「いいえーーー!!!」
「またきやがったか!」と口調が崩れている面布さんから森の方へ視線を戻そうとした瞬間、今度は真後ろから爆発音が響いた。
「!?」
反射的に振り向くと、ほんの数十メートル先からもうもうと黒煙が上がっているのが見えた。
鐘の音と騒ぎの大きさからして、多分櫓側が陽動でこっちの爆発は突入合図か何か…門の破壊でもされた?
山火事にでもなったら目も当てられない。
「……すみませーーーん!高梨先輩のことーーー!お願いしますねーーーー!!!」
「どうされるおつもりですかーーー!?」
「ちょっと1発殴ってきまーーーす!」
「お気をつけてーーー!!!」
私は面布さんとぐっ、と親指を立てて頷き合うと、倉の上から飛び降りて爆発音がした方へ駆け出した。
***
手近な木に登って、枝から枝へと飛び移って、未だ黒煙の収まらない方へと向かう。
地上から行けばすぐに見つかってしまうだろうけど、対人戦を警戒している集団の場合は余程の練度がない限り上からの襲撃への反応は遅れる。
そりゃ、最初っから「お前は前、お前は後ろ」みたいに分けて警戒されていたら呆気なく見つかるだろうけど…大抵の場合はそういう振り分けなんてせずに各々が全方向警戒して報告させるパターンばかりだ。前担当が見落として〜、みたいな可能性を排除するためだろうけど、そんなことしたって疲弊するだけか「みんな見てるし大丈夫だろ」って気が緩むだけなのにな。
実体験込みで断言出来る。……さすがに2人で警戒範囲をカバーし合うのは無謀だったもんね……。
煙から逃げる小動物や鳥のお陰で、飛び移るときの枝葉の揺れる音も周囲に紛れて、相手に私の接近を気取られる可能性はぐんと低い。
完全なる状況有利。ほとんど奇襲は成功したようなものだ。…だからといって油断も加減もしないけど。
近付いてくる足音に耳をそばだてて、襲撃しやすいように幹の下側に枝の少ない木に移動した。
そして、手を保護するためにポケットに入れっぱなしだったハンカチを右手に巻き付ける。
紅葉のワンポイント刺繍が可愛くて気に入ってたけど、しょうがない。どの道、形あるものはいつか壊れるんだから。
木の上で息を殺して待ち構えていると、かなり見覚えのある、赤い蝶の腕章をつけた10人程の黒装束の集団がやって来た。
…ショッピングモールの件と今回から見るに、黒装束は隠密部隊なのかな。
前回と違うのは___
隊列の真ん中辺りの、1人だけ上等そうな生地の袴姿に黒子頭巾の人物にちらりと目を遣る。華奢な体格と手の大きさからして、女性か子どもだろう。
で、あれば筋力的には障害たりえないだろうけど……僅かに霊力の気配がする。布施曰く常世教団が陰陽師サイコー!な集団らしいから、あの子はきっと権能持ちの陰陽師だろう。
権能の分からない異能者の相手は厄介だから、初手で意識を奪いたいところだけど…周囲をガチガチに固められているから、難しいな。
…………仕方ない。身体強化に霊力を回して、こっちの権能は伏せながら戦う他ない。
炎とか念動力とかみたいなただの攻撃系だったら良いけど、自己強化とか、あるいは状態異常系だったら生身で受けたら危険極まりない。慎重に行こう。
ザッザッと集団が木の下を通りすぎていく。そしてその最後尾が真下に差し掛かった時___私は手近な小枝を手折って、1番後ろを歩いていた黒装束に飛びかかった。




