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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
紅白咲かず枯れ落ちて
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変わらない・・・?

 時代の流れから隔絶されたみたいだ、と思った。

 目の前の揖屋村は記憶の中と変わらなくて___最新の魔導具のひとつもありはしなかった。


 むしろ、魔力で動く道具がほとんど見当たらず、電力やガスで動くもの…なんなら人力で動かす道具の方が多いくらいに見える。


 『前世の』田舎なら別段おかしくはなかったけど、山奥とはいえあの魔導学園にほど近い場所なのに全然技術が変わらないなんてこと、あるんだろうか。

 さっき高梨が言っていた『禁足地扱い』と何か関係があるのかもしれない。

 だって、人の流れがなければ技術の伝来は期待できないのだから。

 なるたけ不自然にならないように周囲を観察していると、ふと、高梨が私の袖を軽く引っ張った。


「…古賀。ここは本当に人類圏なのか?」

「…もしかして、化かされたり霊域かもしれないって思ってます?」


 私の問いかけに高梨は控えめに頷いた。

 一瞬そんなバカなこと、と思って、けれどすぐに思い直した。


 ()()、千年経っているのだ。


 いくら閉鎖的な場所であろうとも、これほどまでにそのままの技術水準、生活水準だなんてこと、有り得るのだろうか?

 通常であれば、より便利にしようと試行錯誤を繰り返し多少は道具が変わっていくものなんじゃ?


「……古賀。もし、そうなら___」

「古賀様、お連れ様。こちらへどうぞ。」

「…はい。分かりました。」


 高梨の言葉は面布さんに遮られて、何を言おうとしていたのか分からなかった。

 けれど、少なくとも穏便ではない、ということだけはわかる。


 だって、霊域と疑うなら怪異ぶっ潰さないとだし……なのにそれ用の魔導具持ってないし。

 どうすべきなんだろう…。


 思考を巡らせながらも面布さんの後をてくてくとついて行くと、やがて1軒の(やまと)家屋の前で立ち止まった。

 一般的な二階建ての1軒家が3つも4つも入りそうなほどの広さの母屋に、さらにそれがもうひとつ建てられそうな広さの庭園。

 隅に見えるのは…畑だろうか?そのすぐ隣に物置らしき小屋と、離れと思しき家屋が見える。


 ……なんか、嫌な予感がする。


 恐る恐る、渋々、表札に目を向ける。

 歳月を感じさせる、黒っぽく変色した木札。そこには、それはもう大変立派な筆運びで、『古賀』と書かれていた。


***


「えー…っと……古賀。大丈夫か?」

「……大丈夫じゃなあい!!!」


 邸宅、もとい自宅の離れで、私は繕うことすらできずに膝を抱え込んだ。


 なんでこんな大地主みたいな家なのさ。


 いや、そりゃまあこんな場所から魔導学園へ出れるような子どもという点ではおかしくはないのかもしれないけど、そういうことじゃない。

 禁足地扱いのど辺境地帯で学園の監視の目が通らないからそもそも魔導学園の存在を知らなければ行くことはおおよそ不可能ではある。

 そしてこの村に来てから魔導具を見かけない。

 なら、一般の村民は魔導学園の存在どころか魔導具の存在すら知らない可能性がある。


 と、いうことは。


 外の機関のことを知っているのは、境界となる門番をしていたあの面布さんの一族、もしくは村の上層部だけだろう、と推理できる。

 だから、私の実家がこんな屋敷でも矛盾はない。


 だけど、さあ…!こんな、こんなでっかい家だとは思わないじゃん、フツー。

 まさかあの記憶が離れだけの景色だとは思わなかったよ。…隔離でもされてたの?(爽耶)


 まあそっちはとりあえず置いといて…なんというか、村民たちの(古賀爽耶)に対する態度がおかしい気がする。


 少なくとも「古賀様」と私を呼んだ面布さんたちは以前の私のことを知っていたはずだし、何より門番ってことは外から来た高梨を警戒するはず。それなのに、何も指摘しなければ何も言わなかった。

 裏でコソコソと話し合っている可能性も0ではないだろうけど、それにしてもおかしすぎる。

 どう考えても、こういった閉鎖的な場所では騙し討ちするよりも追い返した方が圧倒的に楽なはずなのに…それをしない。

 村の中で処分した方が良い理由があるのか…はたまた(古賀様)の連れてきた人間だから無下にできなかったのか。


 …まだ判別がつかない以上、高梨と離れない方がいいのかもしれない。

 でも、もし私ごと処分するつもりなら、火を付けられたら、守れるとも限らない。


 …修行はついでで、ただ『古き盟約』とやらについて聞ければ良かったんだけどな。なんでこうなるんだろ。

 …ツイてないな。


「うー…」


 上手く思考がまとまってくれない。

 膝を抱えたまま、ごろんと白っぽくなった古畳の上に転がる。

 ふわりと古いいぐさの香りが鼻腔をくすぐった。それがどうしようもなく懐かしくって、すっと気分が落ち着いた。


「…ねぇ、先輩。」

「どうした?」

「こんな時に聞くのもアレですけど…教えてくれませんか。『盟約』とやらについて、知ってること。」


 まずすべきこと。やるべきこと。

 策を考えるのは苦手だ。暴力だけで解決できるならそうしたい。

 けど、そんなことしたらきっと怪異と同じになってしまうし、なにより兄さんたちに顔向けできない。

 だから、遠回りだとしても、地道にやれることから片付けていくことしか私には取れる手がない。


 姿勢を正して、じっとりと汗ばむ手を握りしめ高梨を見つめる。

 …そういえば彼は、どうして私を信用してくれているのだろうか。

 それもまた『古き盟約』のせいなのだろうか。


「…分かった。どの道、古賀が『古賀家』の者である以上、いつかは言わなければいけないことだったからな。」


 高梨は深く息を吐くと、真っ直ぐに私の目を見つめ返した。

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