お勉強頑張ろう
…頑張ろう、と思ったところで実際に頑張り続けるのは難しい。
特に、自分自身の適性のない分野でできないことを努力しなければいけない、ということはとんでもなく苦痛なのだ。
だけど、その苦痛を耐え抜かなければ成長は見込めない。現状のままだらだらと時間を無為に浪費するなんてそんなこと、したくない。
だから私は目の前に浮かび上がっている文章をちゃんと読み込もうとして___目が滑って机に突っ伏した。
「ああああ〜…分かんない〜…」
…魔導工学は、昔からずっと苦手だ。
***
あれからひと月後。
今のところ大きな事件もなく、みんな平和に学園生活を送っている。
強いて言うならやっかみで喧嘩を吹っかけてきた同級生たちと腕相撲大会したくらいで、本当に何もない。
だから今のうちにこの時代の技術力、文明レベル、知識水準あたりを調べておこうと思って閲覧室に来たのだけど___このザマだ。
思えば、昔から勉強は苦手だった。
端末のおかげでもう資料が散らばることも探すのに手間取ることもない。
けど、元々私は人より時間をかけないと同じことが分からないし、応用や転用なんてもってのほかだった。
でも兄さんに負けたくなくて、何度も何度も頭に詰め込んで天才の振りをしていた。
それでもやっぱり戦闘指揮とかは向いてなくて、結局平里に任せきりにしてしまったし、兄さんに負担をかけすぎてしまった。
頭が悪いから、暴力でねじ伏せる以外の方法なんて知らないし、思いつきもしない。
負傷したら即座に兄さんが治癒してくれていたから、不満足な状態で戦うことに慣れていない。
…これじゃあダメだ。
どれだけ苦しくっても、どれだけ痛くっても、進み続けるだけの強さを身につけないと。
じゃないと、誰かを守ることなんて出来ないんだから。
「んんー……」
小さく伸びをしてすっかり固まってしまった背中を動かすと、パキパキと骨が鳴った。
うーん、しかしこれはマズイ。知識のないままじゃ敵が誰なのか見抜くことも、相手の戦力を計ることもままならない。とはいえ、そんな都合よく巻き込める人間なんているわけが…
「…古賀?何をしているんだ、こんなところで。」
「あ、高梨先輩こんにちはー。」
「ああ。こんにちは。」
相変わらず眩しい黄金色の髪をした青年は、不思議そうな顔で挨拶を返したあと首を傾げて目の前に座った。
そして手に取った古びた冊子のページをパラパラと捲ったところで、はっとした表情でこちらを見た。
「…そういえば、古賀はここで何をしているんだ?」
「先輩が教えてくれたら教えてあげますよ。」
わざと答えなかったことに気づかれただろうか。…でも高梨先輩、結構純粋というか抜けてるから、このくらいだと故意であることは気付かなそう。
…御三家、しかもかつての六大家門の流れを汲む家の次代を担う奴が果たしてそれでいいのか。
平和な時代なら良いのかもだけど、少なくとも今はそうじゃない。
もう少し人の機微に敏感になって欲しいものだけど…彼もまた、私と同じように適性のない中努力しての現状なのかもしれない。
それなら高梨のことを裏切らない誰かしっかりした人見つけて側近にでもできれば、それで良いのかもしれない。
見つかるといいね、の意を込めて笑いかけると、高梨もぎこちなく笑った。
「で、高梨先輩は何しにきたか言えるんですか?」
「そ、れは…」
「言えないなら詮索しないでくださいね。」
「私にだって秘密くらいあるんですよー」、と返して私は再び目の前に表示されている文章に視線を戻した。
魔力伝導率が…変換効率が…???
見たことのある魔導回路なら効果とかを読み取れるけど、それだって平里が懇切丁寧にそれぞれの回路の意味を教えてくれたからだ。
だから、こういう基礎知識は本当に分からない…技術レベルを推定しようにも、この辺が分からないとどうにもならない。
「知能が…足りない…」
「声に出てるぞ。」
声に出てたか。
でも実際そう。知能が足りていない。
魔導具開発してた平里は言わずもがな、兄さんほどの理解力すらない。
脳筋仲間と言われていた西園寺だって、私よりももっとずっと賢い。
きっと、学習能力だけなら私、バカの部類なんだろう。
「はぁー…」
…どうしようもない。せめて、兄さんの半分でもいいから賢く生まれたかった。
頭が良くて教え上手な、巻き込める人間がいなきゃ、きっとここで詰みだ。
まー、そんな都合の良い人間なんて、いるわけないけど。
「…古賀、大丈夫か?」
「あ、うるさくしてすみません。大丈夫です。」
ちっともページの進んでいない冊子を広げている高梨に手を振って___ふと布施に言われたことを思い出した。
「ねー、高梨先輩。」
「どうかしたか?」
「『盟約』ってどういう意味か知ってます?」
こっそりとそう問いかけると、高梨は椅子ごとひっくり返った。
…驚きすぎじゃん?




