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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
紅白咲かず枯れ落ちて
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誓い

 目の前の状況に動けないでいると、ふと___ツカツカと急ぐような硬い足音が近づいてきた。


 誰だろうか。もし急患とかだったらさすがにこの2人どけないと。

 そう思い、音のする方へ目を向けると、加持上官が鬼の形相で立っていた。


 …なにかしたっけ…?いやしてないはず…。


「…布施!久米!喧嘩するなら場所を選べと何度言えば分かるんだ!」

「あら、加持。お久しぶりですね。

…私は悪くないですよ?吹っかけられた側なので。」

「そうなのか?」


 どうやら彼女は仲裁に来てくれたらしい。

 加持上官が久米上官にすっと顔を向けると、彼はばつが悪そうに視線を切った。


「久米…お前…」

「違うんだ。布施がまた手を出そうとしていたから」

「布施、今度は学生にまで?」


 何やら前科のありそうな物言い。もしかして危ない奴なの?

 ちらりと顔を窺うと、布施はにっこりと笑って首を左右に振った。


「さすがに子どもには手を出てないですよ。」

「嘘つくな。」

「本当ですよ。…ね?古賀さん。」

「えっ?」


 突然同意を求められて戸惑っていると、久米上官がこちらを案ずるような視線を向けてきた。


「忖度しなくて大丈夫だ。コイツの被害に遭ったのならきちんと言ってくれ。私の権限で可能な限り僻地に飛ばすからな。」

「いや、あの。被害って…?セクハラ的なのですか…?」


 よく意味が飲み込めずそう尋ねると、今度は加持上官が額に手を当てて天井を仰いだ。


「…やっぱり手出してるんじゃないか?」

「出してませんよ。」

「ならなんでここで古賀の口から『セクハラ』が出てくるんだ。」

「どうしてでしょうねぇ。」


 「不思議ですねぇ」、とわざとらしく頬に手を当てて首を傾げる布施に、久米上官と加持上官の冷たい視線が注がれる。

 別に彼女個人がどうなろうが関係はないけれど、彼女が『布施家』の子孫で、かつなにか知っていそうなところが引っかかる。

まだ信用はしきれないけど、近くには置いておきたいかな。


 …それに、『カミヨリサマ』、だっけ。あの時はそれどころじゃなくてスルーしてしまったけど、なんだか意味を聞いておかなきゃいけない気がする。


「…あの!そういえば皆さんってどういうご関係なん…で、す、か。」


 話題を逸らそうと声を上げると、いっぺんに視線がこちらに向いて、少し気まずくなった。


「そうですね…お2人とも最初は先輩だったんですが、いつの間にか同級生になっていて、気付いたら後輩になっていたんですよね。」

「え?」


 それってまさか、留___


「我々が留年したみたいな言い方をするな。人聞きの悪い…。素直に飛び級したと言わないか。」


 違った。

 加持上官が苛立った様子でそう言うと、久米上官も腕を組んで深く頷いた。


「飛び級…」

「はい。6年課程のところを2年で終えましたので。」

「…………マジで?」


 驚きのあまりうっかり声に出てしまった。

でもさすがにこれは…2年…6年課程を……?


「ここだけの話ですが、

布施家の魔導師教育の方がレベルが高いのですよ。元はといえ六大家門ですから。」


 あまりの衝撃の事実に呆けていると、すっと顔を寄せてきた布施がさらっとすごい情報を耳打ちしてきた。

 六大家門まで知ってるのか、この人は。…ってことはもしかして、他の家門も残ってたりするのかな。

 だったら良いな、と思って布施の顔を見たところで、布施は加持上官にひっぺがされた。


「布〜施〜…」

「あら。」


 怒りを内包するかのような加持上官の低い声に、布施はわざとらしく「しまった」という表情をした。


「はあ…あとはこちらで預かる。君たちはもう行くといい。」

「ああ。そうだな。」


 額を押さえながら久米上官がそう言うと、加持上官も頷き、そして布施は引きずられていった。

 呆気にとられた私は、しばらく廊下の奥に遠ざかっていく3人をただ見つめていた。


***


「…本当に大丈夫ですの?」

「大丈夫ですよ。ほらこの通り。」


 3人が去った後。

 心配そうにこちらを見てくる雪村の前に、手のひらを出して軽く結んで開いた。


「それなら良いですわ。…で、なんで病室にいなかったんですの?陽斗お兄様が先に行っていたはずですけれど…」


 「まさか抜け出したのではないでしょうね」、とジトリとした視線を向けてくる雪村。初めて会った時の面影がすっかりなくて思わず笑ってしまった。


「あはは!私のことなんだと思ってるんですか?」

「後先考えずにその場その場で動く庶民、ですわね。」

「ひどくないですか?」

「事実じゃありませんこと?オリエンテーションの時だって…」

「あー!そういえば高梨先輩置いてきてたんだったー!」

「ちょっと!人の話は最後まで聞くものですわよ!?」

「わははー」


 楽しい。


 楽しい。大好き。


 内乱だとか、魔導学園が魔導師1強主義だとか関係ない。

 私は、この子たちが好きだ。

 だから、守るために精一杯戦おう。


 どれだけ傷付こうとも、どれだけ世界が醜くても。

 私たちの命を賭けた価値がある世界なんだって、思えるように。


 いつか心からそう思えたら___

やっと、(爽耶)()を前世だって割り切れるのかな。


 それで前に進めたらいい、と。

 大好きな友人たちに笑いかけながら小さく祈った。

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